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「スコットランド 旅の物語」を読んで歴史や文化や料理を知る

スコッチ研究家である土屋守氏がスコットランドを旅したときの物語なので,もちろんスコッチウイスキーがその基盤にあるのだが,ただの蒸溜所紹介でも旅行記でもなく,スコットランドで暮らすスコットランド人を形作っている歴史や文化,そして料理を紹介している.そしてその意図は,

あたりまえのことであるが,スコッチを知るためにはスコットランドの文化,歴史を知らなければならない.ワインや日本酒と同じで,飲酒文化というのは,その国の気候風土や,伝統,風習,そして人情と密接に結びついている.スコッチを巡る私の旅は,スコットランドという国を知るための旅であった.

スコットランド 旅の物語「あとがき」

という著者の言葉に現れている.本書「スコットランド 旅の物語」は土屋氏のスコットランド愛に溢れてもいる.

スコットランド旅の物語
土屋守,東京書籍,2000

ある方に勧められて,村上春樹の「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」を読んだと書いたところ,別の方に,土屋守の「スコットランド 旅の物語」もいいよと教えていただいた.

村上春樹が訪れたのはアイラ島とアイルランドであるが,本書もアイラ島の旅の物語から始まる.やはり,スコッチウイスキーを語るには,聖地アイラ島は外せない.

第一章.ラフロイグ蒸溜所の訪問記では,「ラフロイグのファーストレディ」と呼ばれ,その中興の祖として知られるエリザベス・ウィリアムソンについて書かれてあり,ボウモア蒸溜所の訪問記では,ピート堀りを手伝った顛末が書かれてあり,さらには,アイラ島の歴史が紀元前数千年にまで遡って書かれている.アイラ島のウイスキーを生み出すその背景を知るにはとても良かった.

第二章.スコットランドの首都エジンバラの訪問記では,現在のエジンバラの様子に加えて,その歴史も詳しく述べられている.特に,悲劇の女王として知られるメアリー・スチュワート女王が紹介されている.生後一週間も経たずにスコットランド女王となり,16歳にしてフランス王妃を兼務するという,華やかな人生だ.ところが,最後には歴史の渦中にて,断頭台にて斬首された.44歳であったという.

第三章では,スコットランドの伝統料理が紹介されている.とても美味しそうなものもあるが,やはり厳しい環境なので,食材が豊富というわけではなさそうだ.それでも,アイラ島,スペイサイド,ハイランドなどに行って,現地の料理と現地のウイスキーを楽しんでみたい.

第四章.スコットランドの国民詩人,今なおスコットランド人に愛されている,ロバート・バーンズについて書かれている.日本でお馴染みの「蛍の光」の元となるスコットランド民謡「遠き昔」を作詞したのがロバート・バーンズだ.本章には,バーンズの人生が詳細に書かれている.

第五章.アラン島の歴史と,比較的新しいアイル・オブ・アラン蒸溜所について書かれている.1836年にアラン島最後の蒸溜所が閉鎖されて以来,アラン島には長らくウイスキーの蒸溜所がなかった.そのアラン島でアイル・オブ・アラン蒸溜所が操業を開始したのが1995年である.1997年にレストランやビジターセンターがオープンすると,そのオープニングセレモニーにはエリザベス女王が駆け付けたという.ロイヤル・アイランドと呼ばれるアラン島は,イギリス王室との結び付きが強い.その経緯などについても本書では紹介されている.

本書「スコットランド 旅の物語」を読んで,にわかにスコットランド通になった気がする.いや,すぐに忘れてしまうのだけれども.それでも,こうしてスコットランドの歴史や文化を学びつつ,スコッチウイスキーを飲むと,より楽しめそうだ.

© 2022 Manabu KANO.

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