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アートが持て囃されているので「13歳からのアート思考」を読んでみた

アートとは無縁な生活をしている私ですら,周囲でアートという言葉を聞くことが増えた.それも,美術館に行くとかそういう話ではなくて,ビジネスや工学と関連づけてだ.その関連が気になっていたので,本書「13歳からのアート思考」を読んでみた.

「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考
末永幸歩,ダイヤモンド社,2020

冒頭,アート思考とは「自分の内側にある興味をもとに自分のものの見方で世界をとらえ、自分なりの探求をし続けること」だと書かれている.私のような凡人がアートと聞いて思い浮かべるのは,アート作品そのものだが,アーティストにとって,アート作品は結果であって,それよりもアート作品に至るまでの過程が重要であるらしい.どのような疑問を持って,どのように探求していくか,そこにこそアーティストの関心は向けられており,そこにこそアーティストの真価が現れる.

本書では,以下の6つの授業を通して,アート思考が何であるかを読者に伝えている.それぞれの授業で1つの美術作品が紹介され,その美術作品で作者が世に問うたものが解説されている.ただ,頭でっかちになって,その解説を知識として学ぶというのではない.それでは元の木阿弥だ.アート思考にならない.そうではなく,自分の思考を制約している常識をぶち壊していかなければならない.

[CLASS 1] 「すばらしい作品」ってどんなもの? ―アート思考の幕開け
[CLASS 2] 「リアルさ」ってなんだ? ―目に映る世界の"ウソ"
[CLASS 3] アート作品の「見方」とは? ―想像力をかき立てるもの
[CLASS 4] アートの「常識」ってどんなもの? ―「視覚」から「思考」へ
[CLASS 5] 私たちの目には「なに」が見えている? ―「窓」から「床」へ
[CLASS 6] アートってなんだ? ―アート思考の極致

アート作品と言えば,絵画ははずせないだろう.欧州で有名な美術館に行くと,年代順に作品が展示されていたりして,中世の絵画は宗教画のみだったりする.それだけ,教会の影響が強く,その求めに応じて画家は絵を描いていたということだろう.そのような画家は,本書で言うところの「アート思考」をしていたとは言えない.その後,肖像画が求められるようになり,さらに風景画や静物画などが描かれるようになるが,ずっと写実的であることが大切であった.遠近法が発明され,写実的に描くことの理論も整備された.

ところが,ピカソのキュービズムなどが有名だが,近現代になって,写実的でない絵画が登場した.なぜか.それは,カメラが登場して写実的であることにおいて画家は写真の足元にも及ばなくなったことで,みずからの存亡を賭けて,画家にしかできないことを模索した結果だという.なるほど,と思った.

ここでは,本書「13歳からのアート思考」で紹介されている作品については触れない.それは本書を読んでのお楽しみだ.ただ,とても面白かった.それらの作品が何を世に問うたものなのか,それらがどれほどの衝撃を美術界に与えたか,それらを知ることはとても興味深かった.

本書はアートの話に終始しているわけだが,アート以外においても,常識を疑うこと,自分なりの探求を突き詰めていくことは重要だろう.誰もがアーティストになれる.それが著者からのメッセージだ.

ここでいうアーティストは、「絵を描いている人」や「ものをつくっている人」であるとはかぎらないと考えています。「斬新なことをする人」だともかぎりません。

なぜなら、「アートという枠組み」が消え失せたいま、アーティストが生み出す「表現の花」は、いかなる種類のものであってもかまわないからです。

「自分の興味・好奇心・疑問」を皮切りに、「自分のものの見方」で世界を見つめ、好奇心に従って探求を進めることで「自分なりの答え」を生み出すことができれば、誰でもアーティストであるといえるのです。

著者の言うアート思考というのはよく理解できた.スッキリした.

ちなみに,私は美術館巡りが大好きだ.印象派,特にルノワールが好きなので,これまでに行って良かった美術館は?と訊かれると,オルセー美術館と答えたりする.その他にも,ルーヴル美術館@パリ,プラド美術館@マドリード,メトロポリタン美術館@ニューヨークをはじめ,あちこち行く機会があったが,まだ行けてなくて是非行きたいのは,エルミタージュ美術館@サンクトペテルブルクだ.そもそもロシアに行ったことがない.

© 2021 Manabu KANO.

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