プレゼンテーション・アドバイス(5):原稿作成・推敲・練習・練習
前回,ようやくスライド作成まで漕ぎ着けましたが,発表本番までにすべきことが残っています.原稿の作成,原稿とスライドの推敲,そして練習です.今回はその重要性を説きます.
原稿を作成し,スライドと共に推敲する
「スライド作成のルール」に従って,思い描いたストーリーに沿ったスライドができたら,発表原稿を作成します.「スライド作成前にすべきこと」を実行していれば,プレゼンテーションの目的は明確になっているはずですし,誰が聴いてくれるのかも把握できているはずですし,伝えたいことに優先順位も付いているはずです.何をどのように話すべきかは,もう決めたわけです.それを踏まえて,適切な分量で,目的を達成するための発表原稿を用意しましょう.この発表原稿を作る作業を疎かにすると,まともな発表はできません.
自分では内容を完璧に理解していて,スラスラと発表できるつもりでいても,いざ文章にまとめようと思うと,まるで文章にならないことがあるものです.そんなとき,もし原稿を用意していなかったら,本番で見苦しい発表をしてしまうのは当然です.そんな愚を犯してはいけません.発表原稿がないと,時間の管理もできません.
素晴らしいプレゼンテーションを行うためには,内容が優れていることは当然必要ですが,それと同時に,良いスライドと良い原稿が不可欠です.
発表原稿を作成していると,スライドを修正したくなります.こんな説明の方がよいのではないか,こんな図を使った方が理解してもらいやすいのではないか,説明の順番を変えた方がよいのではないか,そんなアイディアが次々と浮かんできます.原稿を作成しない人には,そういうチャンスが訪れません.最高のスライドも最高の原稿もできません.当然,最高のプレゼンテーションもできません.日本語での短い発表であっても,必ず,原稿を作成しましょう.手を抜けば,そこであなたの成長は終わりです.
素晴らしいプレゼンテーションを行うために,何度も何度もスライドと発表原稿を推敲しましょう.徹底的に発表練習も行い,その中でさらにスライドと発表原稿を推敲しましょう.
学会発表に慣れてくると,発表原稿の作成と推敲を怠る人が多くなります.特に母国語での発表であれば,「なんとかなるさ」という根拠のない自信に溺れてしまいがちです.確かになんとかなるのですが,それは終了時間が訪れて発表が終わるという以上の意味ではありません.いかに見苦しい発表をしたとしても,なんとかなったと言い逃れすることはできます.そんなレベルで満足しないで下さい.プレゼンテーションの目的を達成するために,全力で準備しましょう.
徹底的に練習する
スライドと発表原稿の推敲を繰り返し,納得できるものができたとします.いよいよ発表練習に取り掛かるわけですが,どれだけ練習をすればいいでしょうか.少なくとも,発表原稿を覚えるだけで満足してはいけません.発表原稿を覚えるのは最低限やるべきことであり,必要なことであって,それで十分とはなりません.
研究室の学生には次のように言っています.
「スライドと発表原稿を完成させて,原稿を頭に叩き込んだ状態になったとして,プレゼンに絶大な自信を持っているなら,10回程度練習すればいいだろう.自信がないなら,特に初めての学会発表なら,最低50回は練習しろ.下手な奴が根拠のない自信を持ち,自己満足してしまうのが最悪のケースだ.そうなると,一生プレゼンが下手なままになる.気を付けろ.手を抜くな.」
発表原稿を覚えるのは当然です.しかし,それは通過点に過ぎません.聞いてくれている人達にお尻を向けて,スライドをじっと見詰めながら,覚えた原稿を棒読みするプレゼンが素晴らしいとは思いませんね.ずっと黒板に向かって呟いている教員をみて下手な講義だなと思った記憶があるなら,その基準で自分のプレゼンを評価しましょう.
聴衆の方を向けばいいわけではありません.会場を見回して一人一人の反応を確かめつつ,強調すべきところでは,間を取って,ゆっくりと大きな声で話し,必要に応じて,ポインターを使って見て欲しいところを指し示すといったことも必要です.自分の発表態度にも気を配りましょう.練習で意識すらしていないのに,発表本番で理想的な立居振舞ができるはずはありません.
これらのことまで意識して練習しましょう.だから,「スライドと発表原稿を完成させて,原稿を頭に叩き込んだ状態になったとして」なのです.発表原稿はサッサと覚えて,自分の態度や話し方まで意識して徹底的に練習することで,自分がイメージした「聴衆を惹き付ける魅力的なプレゼンテーション」を自分ができるようになりましょう.
もちろん,簡単なことではありません.プレゼンテーションの上達には場数を踏むことも必要です.それでも,練習の効率を高める方法はあります.それは,自分のプレゼンをビデオ撮影して確認することです.発表原稿を見ないでプレゼンできるようになったら,自分が発表練習している様子をビデオ撮影しましょう.自分の声が自分の声に聞こえないなど,色々とショックを受けるはずですが,ダメなところがわかります.物凄くよくわかります.例えば,「え〜」「あの〜」「you know」と連呼する癖がある人や,レーザーポインターを振り回す癖のある人は,自分のプレゼンがあまりにもスマートでないことに愕然とするかもしれません.それでも,自分の癖に気付けば直すことができます.練習すればプレゼン力を高めることができます.努力を惜しまずに取り組みましょう.
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