見出し画像

プレゼンテーション・アドバイス(2):スライド作成の前にすべきこと

上手にプレゼンテーションする方法というと,つい,見栄えするスライドの作り方に目が行ってしまうかもしれません.しかし,聞いて欲しいこともないのに綺麗なスライドを作っても虚しいだけです.

みんなにこれを伝えたい,どうしても伝えたい,そういう情熱と伝えたいことがあれば,人を惹き付けるプレゼンテーションに近付けます.あなたの熱い想いが聞き手の心を掴みます.伝えたいことに関心を持ってもらえます.綺麗なスライドや上手な話し方は,伝えたいことと情熱があってはじめて意味を持ちます.

伝えたいことと情熱があるなら,次に進みましょう.いきなりスライドを作るわけではありません.スライドを作る前にやるべきことがあります.

<スライド作成前にすべきこと>
1) 魅力的なプレゼンをイメージする
2) 目的を明確にする
3) 誰が聴いてくれるのかを把握する
4) 伝えたいことに優先順位を付ける
5) ストーリーを作る

それでは,順番に説明します.

魅力的なプレゼンをイメージする

聴衆を惹き付ける魅力的なプレゼンテーションをしたい.そう思っているからこそ,今これを読んでもらっているのだと思います.もちろん私も,いつも魅力的なプレゼンをしたいと思っています.

そうであれば,自分が「魅力的」と感じるプレゼンをイメージしましょう.発表者はどんな服装で,どんな声で,どんな態度で話していますか.話の内容はどうでしょう.面白くも何ともないことを長々と話してはいないでしょう.魅力的なプレゼンのイメージをどんどん具体化して下さい.そして,自分を理想に近づけて下さい.発表内容だけではなく,身のこなし方や話し方,表情も含めて,自分という人間を理想に近づけるよう努力します.すぐにできるわけではありません.だからこそ大切です.

理想的なプレゼンをイメージする,それもできるだけ具体的にイメージすることが重要です.これはプレゼンだけではありません.スポーツ選手など様々な分野で一流といわれる人達がイメージトレーニングを活用しているという話は聞いたことがあると思います.人生においては,強くイメージしたことが現実になるとも言われます.模範となるプレゼンテーションを積極的に見聞きして,そのような発表をしている自分をイメージして下さい.できるだけ具体的に.

逆に,ダメなプレゼンテーションを見掛ける機会があれば,何がダメなのかを分析しましょう.話し方がよくないのでしょうか,話しているときの態度でしょうか,あるいは,スライドに書かれている文字が小さくて読めないなど,スライドの問題でしょうか.反面教師も大いに役立ちます.

目的を明確にする

プレゼンには必ず目的があるはずです.まず,目的を明確にしましょう.目的がハッキリしない行為に成功はありません.そもそも,目的が設定されているから成功か不成功かを判断できるわけで,明確な目的がなければ,成功も不成功もありません.

研究発表の場合,自分が提案する理論や方法,実験結果を聴衆に理解してもらい,その意義や重要性を認めてもらうことが目的となるでしょう.予算獲得のためのプレゼンなら,提案プロジェクトの凄さを審査員に納得してもらい,予算をつけてもらうことが目的になります.ピッチコンテストもその例です.講師を依頼されたなら,依頼者の期待に応えて,参加者を満足させるような話をすることが求められます.

スライドを作成することも含めて,プレゼンは手段です.何らかの目的を達成するための手段です.だから,目的を明確にすることから始めます.

誰が聴いてくれるのかを把握する

プレゼンの目的に応じて,何を話すべきかが変わります.同様に,誰が聞いてくれるかに応じて,何を話すべきかが変わります.誰が相手でも同じことしか話さないというのでは,とても満足してもらえるプレゼンにはなりません.

大学教員をしていると,専門家相手の学会発表はもちろん,異分野の研究者を対象とした講演,学生向けの研究紹介,高校生や中学生を含む一般向けのイベントなど,色々な場面で発表する機会があります.同じ研究について話をするにしても,当然,聞いてくれる人によって話の内容やレベルを変えます.そのために,講演を依頼していただいたときには,どのような人達が聞きにきてくれるのか,その人達の興味や知識について事前に質問して確認します.

例えば,製造業におけるデータ解析の活用について企業で講演することを依頼されたとします.この場合,どの部署の人達か,指示を出す管理職なのか実際にデータ解析をする若手なのか,データ解析をしたことがあるのかないのか,統計や機械学習についてどの程度の知識があるのか,具体的に興味がある手法はあるのか,あるとすれば何か,具体的にデータ解析を適用したい対象があるのか,あるとすれば何か,といったことを事前に確認します.それに応じて,講演の内容を決めていきます.

あなたが研究についてプレゼンするとしましょう.学会発表のように,発表を聞いてくれる人がその研究分野の専門家だとしたら,研究の背景は簡単に触れておけば十分です.詳しく説明しても,「そんなこと誰でも知ってるぞ.馬鹿にしてるのか?」と思われてしまうだけです.専門家が相手であれば,方法や結果の説明にこそ力を入れるべきです.逆に,聴衆が専門外の人達なら,研究の背景や目的こそ強調しなければなりません.その研究の必要性を理解してもらえなかったら,方法や結果を詳細に説明しても,「で?だからどうしたの?」となってしまいます.研究発表の場合,研究目的が聴衆に共有されなければ,発表は無意味です.あなたがどれほど素晴らしい研究成果をあげられたと思っていても,研究目的がわからない人にとっては,恐らく何の価値もありません.

聞いてくれる人によって,何を話すべきかは変わります.どの程度の専門知識があるのか.どの程度の経験があるのか.どのような情報を求めているのか.自分の話を聞いて何に活かそうと考えているのか.そういったことを事前に把握することが,聞いて良かったと思ってもらえるプレゼンをするためには必要です.プレゼンは聞いてくれる人のために行います.その内容は聞いてくれる人の立場で考えなければなりません.独り善がりにならないように注意しましょう.

伝えたいことに優先順位を付ける

発表目的が明確になっていれば,発表で伝えたいことも整理されているはずです.あれもこれもと欲張らずに,話したい項目に優先順位を付けましょう.たくさん話せば良いというものではありません.10話して2しか理解してもらえないよりも,5話して4理解してもらった方が望ましいでしょう.つまり,話す量を半分に減らして,重要な項目の説明に2倍の時間をかけるといった判断も大切です.

もちろん,長く説明したら良く理解してもらえるというものではありませんが,理解するには時間が必要です.時間をかけて説明することは,理解してもらうことの必要条件であって十分条件ではないということです.あなたがこれまでに聞いたプレゼンを思い出してみて下さい.こちらが理解しているかどうかに関係なく,どんどん話を進めるプレゼンに,もう無理と諦めの境地になったことはありませんか.あるいは授業でもかまいません.同じ過ちを犯してはいけません.

まず,あなたが一番伝えたいことは何かを明確にして下さい.ただし,「伝えたい」というのが独り善がりではいけません.例えば,卒業論文の発表を控えた学生を見ていると,自分が頑張ったことを強調したいがために,あれもこれもと話をする傾向があるようです.気持ちはよくわかりますが,それでは独り善がりのプレゼンになってしまいます.相手に伝えるべきことを確実に伝えるのがプレゼンの本質です.それは,相手にとって価値ある情報を伝えるということです.相手が説得される,行動を起こしたくなる,そんな内容を話さなくてはなりません.

さあ,あなたが伝えるべき一番大切なことは何ですか.

ストーリーを作る

発表は物語です.聴衆を惹きつけ,聴衆が納得するストーリーを組み立てましょう.研究発表の場合,1)研究の背景と目的,2)従来の取り組み,3)提案する方法や技術,4)有効性の実証,5)まとめ,という順序が一般的でしょう.例えば,いきなり自分が提案する方法を説明しても,聞いている人が背景を知らなければ,「はぁ?何の意味があるの?」と感じてしまいます.

1) 世の中には○○という問題があります.この問題を解決することは非常に重要で社会的に意味があることです.
2) これまでにもこの問題に取り組んだ人達がいますが,△△が未解決です.
3) そこで,その問題を解決するために,××という方法を提案します.
4) こういう条件の下では,提案する方法には□□の効果があります.
5) 私は,○○という問題を解決するために,××という方法を提案し,□□の効果があることを確認しました.是非,この××という方法を使って下さい.

このような流れで発表すると,聞いてくれている人も違和感なく受け入れることができるでしょう.発表は流れるように.

さあ,魅力的な発表をイメージする,目的を明確にする,誰が聴いてくれるのかを把握する,伝えたいことに優先順位を付ける,ストーリーを考える,ができたら,いよいよスライドの作成です.


この「プレゼンテーション・アドバイス」も含めて,私からのアドバイスは全部↓の記事「学生/技術者/研究者向けアドバイス一覧(随時更新)」にまとめてあります.

© 2020 Manabu KANO.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?