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論文執筆アドバイス(3):書く,そして推敲と添削

論文に限らず,文章を書くときの意識して欲しいことをまとめておく.その上で,文章を推敲することの大切さ,添削する側の立場から添削を受ける人に気を付けて欲しいことを述べる.

正しく書く

論文に限らず,文章を書くときには,正しい言葉で書くことを常に意識すべきだ.読みやすいとか,分かりやすいとか,それらも当然大切だが,それら以前に,正しくなければならない.そうでなければ伝わらない.

正しい日本語と英語で文章を書けることの大切さは,「大学や大学院で身に付けておきたい力」でも指摘している.

誤字脱字のある論文原稿やレポートを書く人には,「そういうケアレスミスのある論文やレポートに書いてあるデータや結果を信じろと言われても無理ですよね」といつも言っている.

正しく書けない人の根本的な問題は日本語能力の低さだろう.言葉を正確に使えないのに,緻密に考えられるはずがない.つまり,論理的に思考し,自分の考えを説明することもできないと容易に想像できる.ショック療法として,ウィトゲンシュタインの「論理哲学論考」でも読むといいかもしれない.

そう言えば,以前,引用文献の著者が Author at all. になっていて目眩がしたことがある.

良い文章を書く

そもそも文章の良し悪しに対する感度が低いと,良い文章を書けるはずがない.本を読め,優れた文章をたくさん読め,と繰り返し言っている.

正しい言葉で,論理的で読みやすい文章を書けるようになるためには,良い文章をたくさん読むことに加えて,書く練習が必要だ.自分の書いた文章を添削してくれる奇特な人がいれば幸運だ.論文の場合,論文特有の書き方があるので,それに慣れるためにも論文を読む必要がある.

論文原稿を添削していて気になることは色々あるが,「段落」もそのひとつだ.「段落」は気分で区切るものではない.何行書いたからそろそろ区切っておくかというものでもない.意味に基づいて区切るべきものだ.作文技術を身に付けて欲しい。

参考:「新版・日本語の作文技術」,「理科系の作文技術

自分の責任で書く

論文でもレポートでも,自分が理解できていないことを書いてはいけない.何が理解できていて何が理解できていないかを,自分で把握できるようになろう.自分が書いたものの責任は自分にある.「○○に書いてありました」なんて知ったことか.自分の書いた文章には責任を持たなければならない.

推敲する

話の流れや読みやすさを意識して,論文原稿を何度でも修正する.これでもかというほど修正する.想定される読者が容易には理解できない/納得できないだろうと思われるところがあれば説明を追加し,冗長な部分は容赦なく削除する.読者には行間は読まさない.必要なことは全部書く.

誤解や混乱を避けるため,専門用語は統一し,同じ概念を表すのに違う用語は使わない.

間違いをなくすこと.投稿前に間違いは完全になくしておくべきだが,そうはなっていない論文が投稿されてくる.そんなものを,まともなジャーナルに掲載できるわけないだろう.

式番号や図表番号の間違い.数式の間違い.数値の間違い.色々ある.文法やスペルの間違いもダメだ.そういうケアレスミスを犯す奴なら,実験でもシミュレーションでもミスを犯している危険性が高い.論文の内容を信じてくれと言われても困る.上手に書くとかいう以前の問題だ.間違いは完全になくそう.

間違いをなくすことは最低限度の要求だ.推敲して,読みやすい文章にする.一度や二度ではない.何度も何度も推敲して,文章を磨き上げる.「論文執筆アドバイス(2):論文の書き方」で指摘した注意すべき点をすべてクリアできるまで推敲しよう.

原稿を添削してもらう

誰かに原稿を確認してもらえる場合,完成度の高い原稿を早く見せるようにしよう.ただし,「原稿提出前に,印刷して,声を出して読め!」に書いた通り,原稿提出前に,印刷して,声を出して読むこと.いつまでたってもミスをなくせない人は,これをしないからだ.

自分が書いた論文原稿をチェックするときに,第三者の視点を持つこと,つまり(意地悪な)査読者の視点でチェックできることは重要だ.これができないと,いつまでたっても独り善がりな文章のままになる.

修士論文や卒業論文,あるいはジャーナル投稿論文の原稿を指導教員に確認してもらい,問題点を指摘されたとする.このとき,指摘されたところだけを修正するのでは不十分だ.なぜ指摘されたか,何が悪かったのかを理解すれば,他の部分も同様に修正しないといけないのは明らかだろう.次回以降にも活かせる.もちろん,指摘されたことにも対応できないのは論外だ.

赤ペン先生の悲哀

赤ペン先生の四段階.
第一段階:「意味不明」「ここはおかしい」と指摘する.
第二段階:具体的に何がダメかを指摘する.
第三段階:直らない部分を書き換える.
第四段階:すべて書き換える.

実際,学生の原稿を添削していると,元の文章が半分も生き残らないこともある.過去には日本語原稿が9割5分消え失せたこともある.学生の書いた文章はできるだけ残そうと思うけれども,それを実行できるのは,時間と心に余裕があるときに限られる.指摘して書き直してもらうよりも,自分で書いてしまった方が速いからだ.締切が迫っている場合には特に余裕がなくなる.その意味でも,時間的余裕をもって原稿のチェックを依頼しよう.

ちなみに,日本語原稿が9割5分消え失せたケースにおいて,新原稿の感想を尋ねたところ,「ちょっと頭に入りやすくなりました」とのコメントをいただいた.

あと,「添削された原稿を再提出するときの優劣」に書いた通り,改訂版原稿の確認を依頼するときには,修正箇所を修正理由と共に示すくらいのことはしてもらいたい.

それでも添削する

今でこそ偉そうに「こんな原稿でいいわけないだろ!書き直してこい!」と卓袱台をひっくりかえす勢いだが,ボスに徹底的に指導していただいたおかげで,今の自分がある.その恩を返す対象は,後生しかない.だから,私が原稿の添削に情熱を注ぐのは,今目の前にある原稿の完成度を高めるためではなく,学生や共同研究者が独力で完成度の高い論文を書けるようになるためだ.完成度を高めるのが目的であれば,私が代わりに書いてしまえばいい.

© 2020 Manabu KANO.

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