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「同志少女よ、敵を撃て」の敵は誰なのか

タイトルそのままの内容だと思って読み始めたが,ソ連の少女狙撃手が敵国ドイツ兵を撃つという,そんな単純な話ではなかった.いや,確かにそういう話なのだけれども,セラフィマが自分自身の正義のために撃つべき敵は他にもいた.戦争時における個人の敵とは一体何なのか.

ともかく,クズに戦争を起こせるような権限を与えてはいけない.

2022年に話題になり,第11回アガサ・クリスティー賞大賞や本屋大賞を受賞した「同志少女よ、敵を撃て」を,遅ればせながら読んだ.図書館で予約したのだが,予約数がとんでもなく多かったので,ずっと待っていた.

同志少女よ、敵を撃て
逢坂冬馬,早川書房,2021

舞台は,第二次世界大戦でも凄惨を極めた独ソ戦.共産主義を絶滅させたいナチスとナチスを殲滅したいソ連.互いに相手を,およそ話の通じる人間ではなく,悪魔か何かだと思っている.

その独ソ戦で,ソ連は女性スナイパーのみからなる狙撃小隊を編成し,前線に送り込んだ.このように兵士として女性を用いたのはソ連だけと言われる.主人公であるセラフィマは,ドイツ軍の急襲で母親を含む村人全員が惨殺されたなかでかろうじて生き残り,復讐のために狙撃手になる道を選び,その狙撃小隊に加わる.

ソ連を激しく襲うドイツ軍をくじき,ソ連が戦況を大きく変えたスターリングラードの戦いなどにおいて,最前線でスナイパーとして優れた戦果をあげていくセラフィマ.一方,目の前で戦死していく同志たち.そんな過酷な状況のなかを,復讐心を支えとして,生き抜いていく.戦地では戦争犯罪が後を絶たない.略奪や拷問,性暴力.そのような戦争において,女性を守るために戦うと誓うセラフィマ.彼女が直面する辛い現実と迫られる決断.

心揺さぶられる内容だった.

© 2023 Manabu KANO.

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