とても面白かった.組織における縦割りの弊害はよく指摘されるが,本書の「サイロ」とは,まさにそのような,周囲の組織と交流しようとしない組織のことだ.ただ,著者のジリアン・テットは,サイロを批判するだけでなく,現代の高度化した社会においてはサイロは必要であり,サイロをなくすのではなく,その弊害「サイロ・エフェクト」を解消しようと説く.
著者のジリアン・テットは,ケンブリッジ大学の社会人類学博士で,本書執筆時にはフィナンシャル・タイムズ紙アメリカ版編集長を務めていた.彼女の「Anthro Vision(アンソロ・ビジョン) 人類学的思考で視るビジネスと世界」がとても面白かったので,本書「サイロ・エフェクト」も読むことにした.正解だった.
序章では,ブルームバーグが率いるニューヨーク市が取り上げられる.貧困層の多い地区で起きた焼死事故をきっかけに,多くの部署がバラバラに蓄えていたデータを重ね合わせて見ることができるようにすることで,違法建築を効率よく見付け出すことができるようになった.
そのニューヨーク市よりも人口が少ないのに殺人事件が多いシカゴでは,成功したIT起業家が,その職を捨てて警察官に志願した.ギャング同士の抗争が絶えない中,警察の各部署がバラバラに持っていたデータを集めて重ね合わせて見ることで,いつどこで殺人が起こるかを言い当てられる「殺人予報地図」を作成した.この殺人予報の手法は世界各地で採用されているそうだ.
この他,マイクロソフトやソニーのようにサイロ化してダメな会社にならないために,ザッカーバーグが様々な策を講じたフェイスブック.病院の機能を医師目線ではなく患者目線で捉え直すことで,外科と内科の区別を廃止し,圧倒的な顧客満足を実現したクリーブランドクリニック.本書では,「サイロ・エフェクト」を取り除き,組織を良い方向に動かした事例がいくつも紹介されている.
サイロ・エフェクトを解消するために,必ずしもサイロを叩き潰す必要はない.ニューヨークやシカゴの例でも,縦割りで硬直化した組織を取り壊したわけではない.サイロ・エフェクトを解消して成果をあげるために効果があったのは,組織がバラバラに持っていたデータを掘り出し,一元化して,同時に見ることができるようにしたことだ.超高度な解析技術が必要だったわけでもない.
組織が成果を出すためのヒントが書かれている.
本書「サイロ・エフェクト」において,著者が重要性を説いているのが人類学的アプローチだ.なるほど,ここから「アンソロ・ビジョン」に繋がるわけだ.
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