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「集団の思い込み」を打ち砕く技術を身に付けよう

声の大きな人:「〇〇するでしょ!」
普通の人1:(私は■■がいいと思うんだけど,みんなは〇〇だって考えてるだろうな.)
普通の人2:(声の大きな人が〇〇だって言っているし,みんなも〇〇だって考えてるのかな.私は■■すべきだと思うんだけど.)
普通の人3:(やっぱりみんな〇〇しようと思っているのかな.私は■■だと思うのだけれど.)
集団への忖度の結果,全員が〇〇する.声の大きな,おかしい人を除いて,誰も〇〇が良いなんて思っていないのに...

これが本書「なぜ皆が同じ間違いをおかすのか「集団の思い込み」を打ち砕く技術」で取り上げられている「集団の思い込み」であり,「集合的幻想」と呼ばれるものだ.なお,声の大きな人はいてもいなくてもいい.

「集合的幻想」とは,実際にはありもしないことを皆がそう思い込むことで,つまり間違った認識に基づいて行動することで,個人のみならず社会規模で大きな弊害がもたらされることだ.みずから幻想を打ち砕こうとせねば,幻想のために自分の人生を犠牲にすることになってしまう.要注意だ.

なぜ皆が同じ間違いをおかすのか 「集団の思い込み」を打ち砕く技術
トッド・ローズ,NHK出版,2023

本書には色々な興味深いことが書かれている.いくつか拾っておこう.

個人的に有意義なこと(趣味など)に取り組む時間を20%増やしたときの生活満足度の向上は,なんと50%の昇給を受けたときに匹敵する.

ポピュレースの調査

やりたいことをやるのは大切だ.調査結果もそれを示している.

人生最高の特権は本当の自分になることだ.(カール・ユング)

何歳であろうが何者であろうが,私的な自分と公的な自分をひとつにするのに遅すぎることはなく,自己一致に向けて取り組めば生活はより良くなり,集合的幻想に影響されず,加担せず,それを打ち崩す人物になれる.

自己一致というのが,集合的幻想を打ち砕き,自分らしく生きるためのキーワードになっている.

アメリカの20年以上にわたる貧困のデータからは,自己決定権の獲得,コミュニティ内支援の促進,人々の力を通じた生活資源へのアクセス向上により,貧困層の経済的・社会的な流動性が改善することが明らかになっている.

アップトゥギャザーはこの知見に基づき,貧困について語る視点を「施しの対象」から,生活向上のために闘っている戦士へと転換した.目標は,家庭を信頼し,家庭に投資することだ.

アップトゥギャザーはオンラインプラットフォームを通じて,自力での生活向上に取り組んでいる家庭に,用途の指定のない現金を毎月送っている.また,利用者向けのソーシャルネットワークを提供し,家庭や個人の間で経験を共有し,協力し,目標達成を後押しし合えるオンライングループを作っている.

条件がついていない現金を配ることは,貧困層の生活を改善し,将来にわたり稼ぐ力を高めることにつながる.それをコミュニティのすべての家庭同士でおこなえば,協力姿勢と社会的信頼の水準が上がる.

ここで紹介されているアップトゥギャザーという非営利法人の成果が素晴らしいのだが,その成果は,恵まれない人に施すのではなく,信頼して「闘う環境を整える」という行動の結果だ.そのために,使途制限のない用現金を渡す.

ところが日本では,超上から目線なパターナリズムが主流で,貧困なのは本人の能力不足で自己責任で,現金を渡すとろくなことに使わないだろうから,生活を隅々まで監視管理してやるべきだという主張が目立つ.

カリフォルニア州の農村部に拠点を置くモーニングスター・カンパニーは,アメリカ最大のトマト加工業者であり,昔ながらの階層的組織の対極にある企業だ.管理者や監督者を通じて従業員の生産性を担保することはせず,従業員みずから社内での立場と目標を設定する「自主管理」を採用している.誰でも上司の承認なしで会社の資金を使い,必要なものを購入することができる.「同僚たち」が各自で仕事の内容とやり方を考え,決めている.

この無秩序に思えるシステムが,きわめてうまくいっている.過去20年のあいだ一度も途切れることなく2桁成長を続け,550人のフルタイム従業員で年間8億ドルを稼いでいる.

その秘密は何か?…その答えは,信頼だ.信頼の第一歩は,テイラーの流儀に背を向け,労働者の管理をやめることだった.

モーニングスターのような会社は経営学では「高信頼性」企業と呼ばれており…(そのような)企業で働く人々は,幸福度,生産性,やる気がより高いことが明らかになっている.また,高信頼性の職場にいる労働者は,雇用主が掲げる目標により強い一体感を抱いている.同僚への誠実さと親近感がより高く,収入もより多い.さらに,高信頼性企業は生産性,革新性,収益性が高まるのだ.

ここでもキーワードは信頼だ.ところが,日本の大学教員なんてのは,まったく信用されていない.細々したルールで雁字搦めになっている.まあ,カラ出張とかする輩がいるのが悪いのは確かだが,再発防止を理由に生産性を落とすことを問題視しないのはいかにも日本らしい.

「集合的幻想」を叩き潰すには,誰かが声を上げなければならない.裸の王様の真の姿を暴いた子供が声を上げたように.ただ,誰かではダメだ.自分の人生を棒に振らないために,自分が声を上げないといけない.

目次
はじめに―ある小さな町の秘密
第1章 裸の王様たち―「物まね」の連鎖が起きる理由
第2章 仲間のためなら噓もつく―個の利益より集団の利益
第3章 裏切りの沈黙―脳が求める多数派の安心感
第4章 模倣の本能―他人のまねが絆をつくる
第5章 多数派の恐ろしさ―「自分はバカじゃない」ルール
第6章 安全さの落とし穴―「みんな」の価値観は誤解だらけ
第7章 自己一致を高める―満たされた人生のために
第8章 信頼は何よりも強い―不信の幻想を打ち砕く
第9章 真実とともに生きる―信念に基づく声の力

© 2024 Manabu KANO.

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