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【怪異譚】吹雪の日に

 新潟県在住の渡辺さんに聞いた話だ。

 渡辺さんは、戦後まもなく、新潟に生まれて以来、ずっと新潟に住んでいるということで、新潟の移り変わりを見てきたという。
 街が移り変わる中で、冬の時期に変わったなと思うことに、積雪があるという。
 全体的に、積雪が減っていることは確かなのだが、昔の雪はもっと風情があったと言う。

 雪は、季節と共にあり、雪降ろしの雷(初雪の季節に鳴る激しい雷)と共にやってきて、冬支度の時期やらを知らせるものだった、と。
 だから、雪が積もる頃には、人々の心の中には厳しい冬と共にある心構えのようなものが出来ていたし、子供達は雪と遊ぶ術を十分に持っていた。
 今は冬が来ても雪が降るのか、どうかも分からないから、雪をただ厄介者として扱っている、と。

 そして、地区の外れにある小さなお地蔵さんの由来について話すのだった。

 「あの地蔵様はミーボーを慰めるためのものなんだよ」

 渡辺さんは、そう言った。
 そして「もともとは、もう少し、学校に近いところにあったんだけど、道路拡張工事の時に、あそこに移動されたんだ」と続けた。

 ミーボ―はさ、学校の先生の娘さんでさ、元々、新潟の者でなかったんだ。
 先生の転勤と共に、新潟に越してきた感じだった。
 だから、新潟の冬というのを知らなかったんだろう。

 その日も、吹雪で荒れている日でね。
 登校の最中だったのだが、真っすぐに歩いていると、雪が顔に突き刺さるような、そんな感じの悪天だった。
 私達は、我慢して、ただ前へと進んでいたんだが、ミーボ―は、寒さに耐え切れなかったんだろう。進行方向に向かって後ろ向きに、顔を背にして歩いていたんだ。
 足元が不安定になるから、私達だったら、そういうことは絶対にしないんだけどね。

 そんなもんだから、ミーボ―の歩くペースも遅くなって、一緒に登校していた列から離れてしまっていた。
 私はずっと前の方にいたから気づかなかったんだけど、ミーボ―の周りには誰もいなくなっていたらしい。

 吹雪で音が消されていたんだろう。
 ミーボ―は、そのまま脇から来た除雪車に気づかずに、後ろ向きのまま、飛び込んでいったという話だ。

 さっきも言ったけど、ミーボ―の周りには、他の生徒は誰もおらず、幸いにも、現場を見た者はいなかったが、辺りの雪は血で赤く染まり、かなり酷い姿だったという話だ。

 それからというもの、雪の日になると、ミーボ―の幽霊を通学していた道で見かけるようになったという話があちこちで聞かれるようになった。
 登校する生徒も、怖くてその道を通れなくなったものだから、供養のために、あのお地蔵さんが作られたんだ。

 それで実際に、ミーボーを見かける者は無くなったんだけど、学校の怪談として、生徒たちの間では、おかしな噂が広まり、地蔵さんが現在の場所に移る頃には、雪の日に、顔は前に、胴体が後ろ向きになった女の子が、笑いながら、車よりも早く追いかけてくるなどという、とんでもない化け物の話になっていたけどね。

 今は、あの道は子供たちは通らないし新興住宅地になって昔からの住民が少なくなったから、ミーボ―の話は聞かなくなったけどね。

 怪談の始まりと終わりまで、出所が明らかになっているという珍しいケースの話であった。

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