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【怪異譚】とどろき駅

 新潟県在住の会社員、寺井さんから聞いた話だ。

 ある日のこと、帰宅最中のバスに乗っていた寺井さんは、疲れてウトウトとしていた。

 次は「とどろき、とどろき」の声であわてて目を覚まし、バスをとびおりた。
 しかし、何かおかしい。バスを降りたところはバス停でなく、駅のプラットホームだった。

 よく考えると、自分が降りるバス停は「とどろき2丁目」だった。
 それでは、この「とどろき駅」と書かれた駅名は何だ?
 プラットホームから見える線路は?

 戸惑いながらも寺井さんはプラットホームを降りた。
 その途端に、周囲の風景が変わった。
 プラットホームだけはあるが、看板も駅舎もなく、線路は遊歩道へと変わっていた。

 そうだ、ここは、たしか路線バスが走る前に、運行していた私鉄の駅だ。
 今は廃線と化して、線路は遊歩道となっている。

 そう言えば、夜な夜な、今は走っていない私鉄の電車が走るという噂が流れていた。
 夢うつつの中で、いつの間にかバスから電車に乗り替わっていたのだろうか?

 そんなことを考えながら、目的のバス停だった「とどろき2丁目」より200mほど、自宅に近い旧「とどろき駅」から家路に帰ったのであった。

 その後、何度も同じバスに乗っているが、「とどろき駅」に降りたのは、この1回だけだったという。

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