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【怪異譚】血虫

 越後の山間部に”血虫”の話という伝承がある。
 非常に短い話なのだが

 山道を歩いていると、小石のようなものを踏んだ感じがしたので、足下を見ると、自分の足下に真っ赤な血の水たまりのようなものが出来ている。
 これは”血虫”を踏んだ証である。それにすぐ気付けば逃げられるが、少しでもその血を身体に浴びると、怪に憑かれるという。

というもの。
 さて、この血虫の正体が何かも分からないし”怪に憑かれる”というのもどういう意味か、全く分からない。
 ただ、なんとなく”山道を一人で歩くと、時に恐ろしい目にあうよ”という教訓めいた話にも思える。
 私も、伝説の一つとしてしか思っていなかったのだが、最近友人から聞いた話が似たような話であったので驚いた次第だ。
 もしかして”血虫”は本当にいるのかもしれない。

 友人の話では、友人と友人の彼女、それに彼女の女友達とその彼氏の4人でドライブに行った時にあった話だとか。

 帰り道、予定していた時間より少し遅くなり、早めに家に帰ろうとショートカットの山道を走っていると、ゴツンと軽い衝撃が車に感じた。
 運転手だった彼女の女友達の彼氏が「やべ、狸でも轢いたかな」と言いながら、ドアを開け外に出るなり、「うわぁ」と叫んだ声が聞こえた。
 友人がその声に驚き、窓から外を見てみると、真っ赤な、どうみても血のようなものが車の下のアスファルト一面に広がっている。
 「なんだ、何があったんだ。何をひいたんだ」とか友人が思っていると、運転手だった男が、青ざめた顔をしながら、車に帰ってきて「何でもなかったよ」とか言いながら、すぐに車を走らせた、とか。
 友人が、走り去った車の後を振り返って見ると、確かに轢いた物体らしきものは見えないのだが、どう見ても血に見える真っ赤なものが、水たまりのようにアスファルト一面に広がっていた。

 運転手の男は一言も発せず、時折、その男の彼女が何か言おうとするのだけど、あまりにも鬼気迫った表情の男に、何も言えなかったように見えた。 
 結局、その日は友人と友人の彼女が車から降りたところで解散という状態。友人も友人の彼女も車から降りた後、「なんだかなぁ」と言いながら自宅に帰ったらしい。

 そして、次の朝、友人は彼女からの電話で目を覚ました。
 「昨日、一緒にドライブした女友達とその彼氏が、車ごと海にダイブしたらしい」と。
 友人達が慌てて現場に駆け寄ってみると、車が海から引き上げられているところだった。
 引き上げられた車を見て、友人もその彼女も言葉を見失った。 

 昨日、ドライブに行った時は新車のようにピカピカだった車が、まるで長い時間、放置されていたように錆に覆われていたのだった。
 そして、引き上げられた車の中の二人だが、女性の方は昨日とまるで変わらない外見だったが、男性(車の運転手)の方は、どうみても老人にしか見えないほど老け込んでいた。

 友人からの話はこんなところだったのだが、何も無いところに血の池が出来るというのは”血虫”の話によく似ている。
 そして、運転手と彼が運転していた車は、その血虫の血を身体に浴びたため、”怪に憑かれた”ようなそんな不思議な最後を迎えたように思える。

 ”血虫”は伝説のものでは無く、実際にいるのかもしれない。山道を走るときはご注意を。

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