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【怪異譚】魔のカーブ

 35年ほど前に、当時40代であった親戚の叔父から聞いた話。
 叔父が子供の頃の話と言うから、計算すると1950年代の話になるであろうか。

 当時は、まだ日本も発展途上で、道路も舗装されていないところが多く、そんなところを車が走るし、子供たちの遊び場にもなっている。
 そんな時代だったから当然のことながら、事故も多かった。

 そんな事故が多いところでも、特に事故が多いところは、「魔のカーブ」や「魔の坂」などと言われていた。これは、全国的にもそうであったろう。

 叔父の住んでいた地域にも魔のカーブと呼ばれていたところがあった。
 車1台がやっと通れるほどの小道の脇に小川が並行して走っており、道だけが緩やかなカーブとなる。
 小川の方に気を取られ、それを目にして走ると、道が曲がるので、そのまま小川にドボンと落ちるという形だ。
 当時は特にオート三輪などが落ちやすかったらしい。
 あまりにもカーブがゆるやかだったので、幽霊が手招きしているなどとも噂されていたとか。

 この魔のカーブ、噂だけではなく、叔父の同級生が実際に亡くなっている。
 キンちゃんというあだ名の子で、釣りが大好きな子だったそうだ 
 その日も、キンちゃんは釣りをした帰り、自転車を飛ばして、帰宅していた。
 その途中で、魔のカーブを踏み越え、自転車ごと、小川にドボンと落ち、そのまま打ちどころが悪かったのか気を失なった。
 多分落ちたのは夕方4時くらいであったとのことだが、運悪く、すぐに見つからず、日がすっかり暮れたころに、帰りが遅いのを心配した両親と、叔父も含めた近くの大人子供たちが探して見つけた。
 傷もなく眠っているような顔だった、と。
 そして、魚釣りをしていたビクの中には大きなナマズが入っていて、小川に一緒に落ちたので、元気に泳いでいたそうだ。
 あまりにも、その対照的な図が今でも記憶に残っていると叔父は言っていた。

 その後、魔のカーブは”キンちゃんカーブ”と呼ばれるようになり、事故はさらに多発するようになった。
 小学生の男の子が手招きをするという噂が広まり、周囲の人たちはキンちゃんの霊を弔うように小さなお地蔵さんを祀った。
 すると、事故は起きなくなったそうだ。

 この道は、道路整備で今は無く、お地蔵さんも、その時に近くの寺に移されたという。

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