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【怪異譚】観覧車

 遊園地のアトラクションの事故というと、ジェットコースターなどの絶叫系アトラクションの事故を想像しがちだが、どんなアトラクションにも事故が起こりえる可能性がある。
 そのことは、遊園地協会などが発表している遊園地事故事例書などで知ることができる。

 たとえば、観覧車のようなファミリー向けの機種も、各地でかなりの事故事例がある。
 さすがに「ゴンドラが落ちた」というような事故は少ないが(無いわけではない)、かなり多いのが、「客の降ろし忘れ」という事故だ。

 記憶に新しいところでは、平成8年に東京都の遊園地で、閉園間際に乗った乗客6名を係員が降ろし忘れ、そのまま運転停止。
 乗客は14時間の間、観覧車の上空で宙づり状態になっていたという。

 当時は、携帯電話もまだ普及しておらず、連絡をとろうにもとれないという状態で、ゴンドラの中で一晩過ごした乗客はさぞかし不安だったであろう。

 さて、この観覧車の降ろし忘れであるが、今はすでに閉園した関西地方の遊園地で、奇妙な事例が残っている。

 その遊園地ではナイター営業をしており、夜景が見える観覧車はナイターのウリでもあり人気であった。
 ある日のことだ。
 6番のゴンドラに一組のカップルが乗り込んだ。
 その遊園地では、観覧車の降ろし忘れ対策に、お客さんが乗っているゴンドラの番号をチェックしていた。

 ところが、観覧車が一周し、乗り場にゴンドラが戻ってきても、6番のゴンドラの中に乗客の人影が見えない。
 係員の方は、ナイターにカップルで来たのだから、観覧車の個室に隠れて、よからぬことをしているのではないかと思い、ゴンドラの扉を開け、中を目視で確認したが、誰もいない。

 おかしいな、間違えたかなと思い、次のゴンドラなども見たが、6番に乗ったはずのカップルの姿は確認できなかった。
 ちょっと、ボケたのだろうかと思い、何周か確認したが、結局、その夜、6番ゴンドラのカップルを確認することは出来なかった。

 あくる日のことだ。
 その日は雨が降っていて、遊園地にお客さんはほとんどいなかった。
 昼ぐらいに、誰も乗っていないはずの観覧車のゴンドラから人の大声が聞こえた。

 6番ゴンドラだ。

 慌てて下に降りてきた6番ゴンドラの中を見ると、カップルがグッタリとした感じで乗っていた。

 カップルの話を聞くと、頂上の辺りで、辺り一面が電気が消えたように真っ暗になった。
 停電かなと思ったが、それにしても余りにも暗闇で、非常電源などもついている感じが無い。
 怖くなって二人で声を掛け合っていた。
 10分くらい続いたその闇がパッと明るくなって、気づいたら外に見えるものは夜景でなく、雨降りの風景で、どう見ても夜ではない。
 余りにも変だと思い、慌てて大声で助けを呼んだ。

 ということだった。

 カップルの話では10分ほどの暗闇の間に、一晩が明けていたというわけけだ。
 一方係員の方では、前夜はいくら確認しても、カップルの姿が見当たらず。
 どう考えても、時空の歪みにまぎれたとしか思えないのだが、「降ろし忘れ」の特異例として業界では語られているという。
 

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