【怪異譚】クマの”ふわふわ”
地方の商工会がやっているお祭りや、ちょっとしたイベントなどへ行くと、”エア遊具”なるアトラクションがあることがよくある。
バルーン遊具や”ふわふわ”等と呼ばれるもので、空気で膨らませるタイプの遊具だ。
割と安価でレンタルすることが出来、大型でアイキャッチにも優れているため、そのような催事では重宝されている。
ただ、それだけに割と気軽に考えがちで、安全対策を十分にせずに設置することもあって、時々、事故が起きてニュースとなることもある。
例えば、十分な重石をしなかったため、強風で遊具が吹き上げられ、人が遊具の下敷きになる。
また、滑り台タイプのエア遊具に乗っていた子供が、強風でエア遊具が転倒し、地面にたたきつけられるなど。
ニュースになるものもあるが、ニュースになっていないだけで、実は事故が隠されている、そんなモノもあるのかもしれない。
そんなことを思ったのは、関東のイベント会社に務める小平さんの話を聞いたからだ。
イベント会社の仕事も色々あるが、実際にイベントを運営するよりは、先にもあげたお祭りやちょっとしたイベントで使用するものを用意するという仕事も少なくない。
自分の会社だけで、そのような道具を全て持っているわけではなく、あちこちから調達してくる。その手間賃が稼ぎとなるわけだ。
そのエア遊具をレンタルしたのは、ちょうど夏のイベントが重なる季節で、いつも借りているところには在庫が無かったため、ほとんど取引がない会社からのレンタルだった。
クマの形をしたドームタイプとよばれる形状の、それは多少古かったが、作りはしっかりしており、中にボールプールがあるタイプのものだった。
その”クマのふわふわ”を、会場に運び、実際に膨らんだことを確認し、重石をつけ、内部にも異常がないことを確認した。しばらくすると受付が始まり、子供達が入っていく。
いつものイベントと流れは同じだ。
小平さんは少しだけ確認して、後は会場を離れ、夕方、イベントの撤収作業の時に会場に戻るつもりだった。
ところが様子がおかしい。
”クマのふわふわ”の中に入った子供が、すぐに出てくるのだ。
中には泣いている子供すらいる。
これは、ただ事では無いと思い、子供達に「何かあったのか?」と尋ねると、「中にイタズラをする子がいる」と言う。
ふわふわのドームの中で飛んだり跳ねたりして遊んでいると、髪を引っ張ったり、ボールプールのボールを、顔に投げてくる子がいるというのだ。
受付の子にきくと、受付を通った子供は、みな同じ様に言ってくるという。
念のために、一旦、中にいた子供達をドームの外に出させて空にしてから、点検したが、特に異常は見当たらない。
異常なしということで、受付を再開したが、今度は子供達が怯えて、”クマのふわふわ”に入ろうとしない。
小平さんは仕方なく「大丈夫。お兄さんが一緒に見ていてあげる」と言い、ドームの中へ、二人ほどの子供たちを誘い、一緒に入った。
中へ入ると、あれだけおびえていた子供たちは、やはり楽しかったのだろう。はしゃぎまわり、飛び跳ねていた。
「やはり、ただの気のせいだったんだな」と小平さんが外へ出ようとした、その時、ボールプールのボールが目の前をかすめた。
遊んでいる子供達とは、まったく逆の方向からだった。
何が起こったのかと、小平さんがボールが飛んできた方向を見ると、一緒に入った子供達とは違う、坊主頭の5歳くらいの男の子がいた。
今の子供には珍しくハーフパンツでなく、膝小僧を露わにした半ズボンを履いていた。
坊主頭の子供は、小平さんと目が合うと、イタズラが見つかったようなバツが悪い顔をして消えるようにして、その場からいなくなった。
その後は、イタズラする子は、”クマのふわふわ”には現れずにイベントが終わった。
”クマのふわふわ”を返却する時、小平さんは、その一連のことをレンタル業者に話し尋ねたが、「そんな薄気味悪いことを言われたのは初めてだ」と返された。
まぁ、当然だなと小平さんは思ったという。
その後、その業者を使うことは無かったので、その業者や、エア遊具が現在どうなっているか、分からないという。
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