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【怪異譚】コンピュータプログラム

 1980年代前半、家庭用コンピュータが普及し始め、マイコン(マイコンピュータ)などと呼ばれていた頃の話だ。
 機種で言うとPC-6001とか、コモドール64とか、パソピア7とか、その頃。

 当時はもちろんネット環境などは無いので、データの受け渡しは、媒体によるものだった。
 もちろん、今のように、SDカードや、メモリスティックはない。CDも無い。知っている人も少なくなったフロッピーディスクすらでもない。

 それでは、何か?カセットテープだった。
 データを音声として、保存していたのだ。

 そのため、必然的に保存時間も、読み込み時間も長くなった。
 長編ゲームならば、データを読み込みするまでに30分以上かかることもあった。
 ゲームをしようにも、ROMカセット(ファミコンのゲームカセットのようなもの)はあったが、高価だったので、あまり買えなかった。

 代わりに、自分でゲームを打ち込んで作っていた。
 信じられないかもしれないが、かつてはゲームのプログラムが書かれた雑誌が発売されていた。
 そして、そこに書かれたプログラム言語を、キーボードで一字一句間違わないように打ち込み、そのゲームで遊んでいたのだ。
 (”BASIC ゲーム”あたりで検索すると、その辺りが理解できると思う。)

 当時、私の家にも、親戚の家からもらったコンピュータがあり、小学生であった私も、プログラム雑誌を読みながら、必死で打ち込んでいた。
 ただゲームをしたいがために。

 ちょっとしたゲームを打ち込もうとすると、最低でも丸一日はかかった。(小学生の故に)
 それを、カセットテープに保存して、遊んでいた。

 プログラムデータをカセットテープに保存するという事は録音と同じで、読み込む時には、テープを再生する。
 そのデータの音も聞くことが出来る。
 と言っても、”ピー”と”ガガガー”というノイズ音でしかないが。

 これも20年くらい前になるのだろうが、まだ光ケーブルなどなく、アナログでインターネットに繋いでいた時に聞こえる音と言うと想像がつくだろうか?

 40年ほど前は、このノイズこそが、コンピュータのデータ音として、最先端のテクノロジーの音だったのだ。

 そんな感じで、その日の私も、それまで打ち込んでいたプログラムゲームを読み込んでいた。
 超大作で一週間ほどかけて打ち込んだものであった。
 ”ピー、ガガガー”、最初はいつも通りのノイズ音だった。

 20分位した時に、音が変わった。
 ”ウゥー、ウゥー”と、どう聞いても、人間の嗚咽にしか聞こえない音が数秒間、聞こえた。

 その瞬間、コンピュータのモニター画面が、赤色と黒色で点滅しはじめ、”ビビビビビ”と警告音のようなビープ音が鳴り始めた。
 あわてて、キーボードの色々なボタンを押すが、止まらない。 
 現在ではフリーズと呼ばれる現象は、当時は暴走とよばれ、このように騒がしいものであった。
 こうなると、電源を落とすしかない。

 電源を立ち上げ直すと、普通に立ち上がったが、カセットテープは、再生機の中で切れてからまり、取り出すまでにも暫くの時間がかかった。
 1週間もかけて打ち込んだプログラムは、再生不能となり、私の方も、それがキッカケとなり、そのコンピュータとは疎遠になった。

 ファミコンなどの、ゲーム機も流行り、わざわざプログラムを打たなくてもよくなったためだ。

 後に、そのコンピュータは、親戚の本家の息子が、不慮の事故で亡くなり、親戚に渡したはよいが、親戚には子供がおらず、持て余したため、我が家に、そのコンピュータがやってきたということを知った。
 そのコンピュータと、あの一連のコンピュータ暴走事件が関係あったかは知らないし、コンピュータはとうの昔に粗大ゴミとなって回収されたので、知るすべも無い。

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