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【怪異譚】プールサイド

 新潟県在住の田村さんに聞いた話。

 今から30年ほど前、田村さんが小学生だったころの話だ。
 それは、夏休み間近の、水泳の授業でのことだった。その日は、学年行事として計測会を行っていた。
 計測会とは、水泳の個々のタイムを計るものだが、一人一人、計るわけではないので、各クラスごとの競争対決のようなものとなっていた。

 計測をしてない者たちは、プールサイドに一列に座り、各々のクラスの者を応援していた。
 田村さんもクラスメイトの皆と同様に応援していた。

 計測会も終わりに近づいた頃、「バシャン」と、何かが水に落ちる音が、応援の声に交じって聞こえた。
 何が、あったのかと思い、田村さんが音のする方向を見た時

 「バシャン、バシャン、バシャン・・・」

 プールサイドに座っていたクラスメイトたちが、ドミノ倒しのように次々とプールに落ちていった。

 何があったんだ、と田村さんが戸惑っていると、「ドン」と後ろから、田村さんの背中を押す手の感触を感じた。
 その瞬間、田村さんもプールサイドからプールへと、「バシャン」と水音をあげて、落ちていった。

 結局、田村さんを含め20名ほどが、プールに落ちる事態となった。
 当然のことながら、計測会はすぐに中止。

 その後、すぐに教師たちは、落ちた子たちに、聞き込みを行った。
 最初は生徒たちの集団でのいたずらを疑ったそうだが、プールに落ちた生徒達は、口々に、田村さんのように「誰かに背中を押された」と答えるばかり。
 しかし、生徒や教師を含め、誰一人として、背中を押したものを見た者はいなかった。
 実際のところは、何が原因か分からないまま、話はうやむやになった。

 田村さんは当時を思い出しながら、「背中を誰かに押されたのは間違いない。ただ、自分は次々と落ちるクラスメイトを見ていた記憶があるのだけど、押した人は見なかったんだよね。だいたい、人の背中を押しながら、あんなに早く移動できるわけもないし、ホントに何があったのか、当時も今も分からない」と言っていた。

 その後、同様の事件があったという話は、田村さんが知る限りでは、その前にも、その後にも無かったという。
 このプールは、学校改築の際に無くなったそうだ。

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