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【怪異譚】水たまり

 19世紀末、オランダのマーストリヒトで、奇妙な失踪事件があった。

 雨上がりの日、地面には水たまりが多く残っていた。
 人々は、水たまりをよける様に道を歩いていた。
 その、水たまりの中へ、一人の紳士が足を置くやいなや、紳士は吸い込まれるようにして水たまりの中へ落ちて消えていったのを、一人の女の子が見ていた。
 それは、近所に住むニコラス・ビーヘルのように見えた。
 周囲のものは、子供の話と馬鹿にしていたが、確かに、それ以降ビーヘルの姿を見たものはいなかった。

 水たまりというと、福島の会津の伝説に「潦(にわたずみ)で釣りをする老人」の話がある。

 会津の山奥にある集落の話である。
 長雨が続いた集落の外れに水たまりが出来ていた。
 その、水たまりへと、見たことが無いみすぼらしい老人が、釣り糸を垂らしていた。
 それを見て、子供達は馬鹿にして笑い、面白そうに、老人を囃し立てていた。
 夕暮れ、子供がいつまでたっても帰ってこないものだから、様子を見にきてみると、老人が釣りをしていた水たまりは、大きな池となっていた。
 そこには、老人も子供達もいなくなっていた。
 そして子供達は、そのままいなくなった。

 という、オチも教訓もないような不気味な話だ。

 いずれも水たまりをキッカケに神隠しがあったという話なのだが、あるいは水たまりの中には異世界への通路が、ふとしたキッカケで開いているのかもしれない。

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