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2021年7月の記事一覧

ため息のような停車音。民家が減って、田んぼも減ってきて、名前の知らない木ばかりになった。「長旅だから」リュックを枕に、居眠りをする君の頬を、夕焼けが照らして、その無防備な愛らしさに、僕は幸せを感じるのです。永遠は御伽噺だ。だからこそ始まりは、静止画みたいに。空寒い、ベルが鳴った。

野原
3年前
1

メアリー、虹の始まりを知ってるかしら。夢と現実の境目があって、辿り着けばずっと、幻の中で暮らせるの。ねえメアリー、私、行かなくたって幸せだわ。ずっとここで、一緒にいたい。それ以上望まないから、それだけは、お願い。そう、行くの、人って欲に限りがないのね。
それとも、これも夢かしら?

野原
3年前
1

宝石、透かせば、この世の全てが見えそうなくらい、純粋で美しい。これを誰もが欲した。僕は裏切り、欺き、宝石を血で塗れた手で触れないよう、丁重に包んだ。高く売れるらしいが、この国で僕の顔は、側溝を這うネズミだって知ってる。やっと着いた隣国で、これは汎用的に窓の素材へ使われると知った。

野原
3年前
1

手癖と手櫛、100段階評価の52と5.2、カーペットとシーツ、タピオカと唐揚げ、2日目のカレーと食べ残しのシチュー、スイレンとハス、空と自由、火粉と花火、睡眠と快楽、早朝と夜明け、後悔と自己嫌悪、175cmと157cm、右利きと両利き、喧嘩と前戯、恋と欲、愛と受容、ぼくとあなた。

野原
3年前
3

雪崩れて、迫り来て。灰色の遠雷と、やさぐれて、放り投げたような大気。片っぽだけの履物が、空中をひとりでに散歩する。SF映画の大円盤が、のっしり都市を覆うように、金糸の綿飴が世界を包む。憧れて、触れたくて、40階の屋上で、突風があって、46キロの身体は、木の葉が舞うみたいに攫われて

野原
3年前
3

人はみな、蝶だった。ひらひら陽気に舞って、花の蜜を味わう。今よりずっと自由で、可憐で、かつ絢爛で豪奢で、そういった生き方をしていた。いつしか人が地を駆け回った。蝶を捕まえて、ピン留めしたり、鱗粉を剥ぎ取って遊び始めた。みんな大慌てで、次から次へ、人になった。残ったものは蛾だった。

野原
3年前
4

時折、戦友に出逢う。キッチュな小料理屋で対面して、囁くように言葉を交わす。私達はそこで、世間一般という共通敵と如何に戦ったかを、武勇伝の響きで、社会生活を語る。別れ際に、心の中で握手をして、電車を見送る。大抵の場合、この関係はここで終わる。もし終わらないなら、それは恋か嘘つきだ。

「どきどきするね」殆ど摩擦音の、話し声。胃が、脳が、心臓が、君のものになる。「吸いながら燃やすんだってさ」細く白い陶器の指が、煙草の先端に火をつけ、けほけほと、笑いながら咽せて、貴方の番ねと差し出す。君は躊躇う僕に、意気地なし、と言いながら、唇をじっと見る。なんだよ、意気地なし。

野原
3年前
1