自主性を育てる
僕は学校から依頼されて行く中学生、高校生のレッスンで、最初の2回程度は生徒さんの様子を見ます。「どんな性格なのか」「やる気はあるか」「集中力はどれくらい続くか」「与えた課題をきちんとこなすか」など。ここで生徒さんの情報を集めて少しずつレッスン内容を変えていきます。
例えば「やる気」、これは大切な要素の一つ。そもそもやる気がある子は方向性を示せば勝手に上達しますからね。最初から音大受験を志望するような子はほとんどがやる気に満ち溢れているのでこちらも楽ですが、学校の部活においては「コントラバスをやりたい!」と希望してくる人がほとんど居ません。「背が高いから」「楽器が余っているから」と与えられ、仕方なくやっているケースが実に多い。前向きになれない生徒さんの場合は、まず楽器の楽しさや可能性、素晴らしさを伝え、まずは楽器に向き合う姿勢を変えていくようなレッスンにします。
「え~出来ません」「やれません」「無理です~」とマイナスな言葉を吐き続ける子と接しているとこちらのメンタルもやられてきますから、そういった生徒さんのレッスンの際、こちらはテンションを上げて対応しなければならず、正直かなり精神力を削られます。こうした言葉を聞いて心底「無理だ、嫌だ」と訴えているのか、マイナスな言葉を吐き精神的な逃げ場を保つ事で生徒が楽になっているのか、その辺を見極めて対処する必要がありますね。
集中力については、中高生なら1時間が限界です。特に中学生は露骨に集中力が持続しないので、1時間で休憩を入れ、再開後も注意力散漫ならそこでレッスンは終わります。無理にやっても身体に残らないですし、楽器や音楽を嫌いになっては元も子もありません。
そして「課題をこなしてくれるか」。レッスンでみっちり練習に付き合う先生もいらっしゃいますが、これでは自主性が生まれない。
基本的に僕は《練習は自分で行うもの》と知って欲しいので、最初の2回は「こうやってごらん」と簡単に練習方法を伝え、課題を与えてみます。賢い子はこれだけでどんどん進みますね。
何度か続けて課題をやった形跡が見られない場合、「何でやらないの!」とすぐに叱る人も多いのですが、実はこれがタイミングとしては少し早い。「やらない」のではなく「練習方法を知らない」とか、「そもそも練習って何をするのかよく分かってない」「どこまでやれば良いのか知らない」という子が多いんです。やらないのは罪ですが知らない事に罪はない。
なので、「この子は知らないんだな」と思ったらレッスンで練習に付き合うようにして、「こんな方法もある」「反復練習も大切なんだ」と改めて練習のやり方を少しずつ教え、そこからまた少しずつ自分で練習出来るように導いていきます。
最終的には自分で考えて練習してくれるようになって、僕は方向性や表現方法が間違っていないかどうかを判断するだけになるのが理想。いくつかの学校ではそのような体系が出来つつあります。僕の生徒はコントラバスながら吹奏楽部の部長を務める子が多いのですが、これも自主性を育てている成果だと考えています。
僕自身は、幼い頃から「言われた事しかやらない」いや、下手すると言われた事すら出来ない子供でした。思考停止の状態が長く、自ら考えて実行する事が出来なかったんです。ある時「このままではダメだ」と気付き、どうすれば変われるか必死に考えるようになったのは本当にこの10年くらい。あまりに遅すぎる気づきだったので、自分の子供や生徒には、早い時期から「自分で考える」「自分で悩む」「自分から行動する」ことの大切さを知って欲しいと思うようになりました。
楽器のレッスンにおいて、ただ楽器の技術を伝えるだけなら誰でも出来る。そこで音楽を通じて思考停止をさせず自主性を身につけさせ、「自分で考えられる人間」を育てる事こそ、本当に大切なんじゃないかなと考えています。
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