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⑥山形 大沼百貨店の競売とその後

本業が忙しくこちらのアカウントはサボっておりました。。。
5記事も書いてしまった謎の縁のある大沼百貨店ですが、また動きがありましたね。

2020年3月に大沼の山形本店などの土地と建物について、抵当権者の山形銀行は山形地裁に競売を申し立て、認められました。報道を見る限り、2020年7月時点で、まだ次の所有者は明確になっていないようです。
また、以前の従業員による「感謝セール」も開催されるようですね。閉店セールさえなく倒産してしまったので、こういった場が開かれるのは良いことだと思います。

日経新聞の問い ~ そして銀行は引き金を引く

6月の日経新聞記事を見てみます。以下、抜粋です。

それまで地場百貨店を陰で支えてきた地域金融機関の姿勢も微妙に変わっていく。人口流出、地域経済の地盤沈下、ゼロ金利政策などで金融機関自体の稼ぐ力が弱くなった。地場百貨店について「街の顔は守る」と多くの地域金融のトップが語っていたが、その余裕はなくなりつつある。
山形の老舗百貨店、大沼は業績悪化が鮮明になり始めたリーマン・ショックの前後から主力取引行の山形銀行から幹部クラスを受け入れ、副社長を務めた人物もいた。(中略)再生への決め手を欠き、18年に再生ファンドへ身売りを余儀なくされた。引導を渡したのは山形銀だった。そのファンドも再生に失敗。経営は迷走した。

以前、大沼の経営悪化に至る伏線が2005年ごろにあるのではないか?メインバンクの山形銀行との関係性は?という記事を書きましたが、それと関連する内容になっています。
「なんで助けてくれないんだ!」とごねても「地銀も地場企業を支える体力を失っている」ことは重要な論点だと思います。また、毎年人口の1%、町一つ分の人口が流出し続ける山形県(日本の多くの地方が同じ状況です)において、「百貨店を支える購買力も地元から失われている」のも現実です。

競売をめぐる不思議

続いて、百貨店の競売に関する記事を見てみます。

山形銀行が競売を選択しているのは、「公平性の観点」です。山形銀行にも株主があり、株主保護の観点から「極力高い方に売ろうとする」のは理解できます。山形銀行の株主には、地元の人達も多く含まれるでしょう。「大沼の不動産をただ安く売ればよい」というのは一方的な見方だと思います。

倒産会社が同じ形を維持することはまずない

改めて、先ほどの地元新聞の記事を見てみます。

 「大沼は山形の象徴。あるのとないのとでは全然違う。再オープンしてくれたらうれしい」「大好きな山形が全国初の“百貨店ゼロ県”になったのはさみしかった」
「生き残るためには、若者向けのテナントを入れるなどの集客策が必要だ」と語った。市内の会社役員は「大沼は長く再生できずにいた。同じ百貨店の業態で復活できるのか」と疑問視した。

一連のシリーズの冒頭で書いた通り、倒産会社が仮に立ち直ったとしても同じ形を維持することはまずありません。何らかの問題があったから倒産したわけですから、同じ形を維持しようとすれば、同じ結果になってしまうだけです。

この記事に書いたように、コロナ前の時点で、競合の仙台の百貨店が出店しないほど、山形市内のリアル店舗の魅力は薄れている状況であり、経営に強い逆風が吹いているのは間違いありません。会社のオーナーが変わった場合、当然ながらテコ入れはされるものと思います。

高島屋を始めとする首都圏に展開する大手の百貨店さえコロナで経営悪化している中、「そもそも市の中心部で従来の形の百貨店の経営を続けることが持続性の観点で良いことか」という問いは必要だと思います。名古屋・御園座の例のように、破綻状態 ⇒ 売却 ⇒ 下はテナント、上はマンションの複合ビルとしてよみがえったケースもあります。
百貨店の強みを「目利きと商品提案力」と定義するのであれば、実店舗は最小限にし、ネット通販や商社業に振り切ることも一つの選択肢です。

情緒的な判断ではなく、持続性の観点から、現実を踏まえた冷静な判断が下されれば、他の地域においても参考になる事例になるのではと思います。

【連載:大沼百貨店シリーズ】

第1回:どうすれば生き残れたのか?
https://note.com/ikkudo/n/ne05827fb9193

第2回:伏線はもっと前 
https://note.com/ikkudo/n/n807008cd8374

第3回:"うさんくさい"ファンドがなぜ選ばれたか?
https://note.com/ikkudo/n/nac0e028d120a

第4回:続報 倒産から1カ月 割と悲しい現実
https://note.com/ikkudo/n/n182ddba4e71a

第5回:事業再生の難しさ
https://note.com/ikkudo/n/nf102aee229f5

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