見出し画像

バースデー・ステーキ

 高級レストランに行ってきた。嫁の誕生日が近かったからだ。贅沢をしたので、これからまた質素倹約に生きなければいけない。明日の晩メシは、保湿ティッシュ。甘くて美味い。

 メインディッシュはステーキ。予約の時にそう聞いていたので、運ばれて来たものを見て随分驚いた。一枚肉じゃなかったからだ。サイズ感は、ちょうどうまい棒ぐらい。高級肉の例えに、12円の駄菓子を挙げてしまう自分のセンスが悲しい。ボキャブラリーが貧困ってそう言う意味じゃないよ。あと、コース料理のステーキはこのサイズが普通らしい。卑しいヤツだよ、まったく。

 食べてみると、めちゃくちゃ美味い。「これこそが肉!」と言う感じ。ただ、先述の通り、めちゃくちゃ美味いのにそれを言語化する能力が無い。頭の中で彦摩呂を呼んでみても、全然出て来てくれない。なんかモグラ叩きのミニゲームみたいに、彦摩呂が出たり入ったりする。肉の、えー、あの、肉の、何だ、肉の、肉だ。彦摩呂チャンス失敗。

 嫁ならきっとこの旨さを言語化出来るはず。そう思い、目の前を見たらワインでテロテロになっていた。忘れていたが、こいつは下戸だ。泡、白、赤と度数高めの酒が三連続で出て来たからだろう。真っ赤な顔でえへらえへら笑いながら、肉を喰らっていた。面白い。アニメや漫画でたまに見る「皆んな食べちゃダメ! この食事にはクスリが盛られてる!」と言う注意喚起のキッカケ役になるヤツみたいだった。

 ただ、そのお肉よりも衝撃を受けたことがある。それは、最後にバースデープレートを持って来てくれたこと。もちろん、通常なら驚かないだろう。しかし、今回は手違いで、誕生日であることを事前に伝え忘れていたのだ。どうやらオレたちの会話の内容から察してくれたらしい。なんてスマートなんだ。そのおかげで、非常に良いお祝いが出来た。ありがてー。美味しいメニューも洒落た対応も、ニク過ぎるお店だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?