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俳句物語0011~0020

一家揃って体調崩したりして(コロナではない)、思うがままに書けないでいるこの頃。
家族の健康より執筆優先、ということにはならない。
思えば自分も子ども時代、季節の変わり目ごとに風邪を引いていた。
寝込んでいると、「蒲柳の質(生まれつき身体が弱く、病気にかかりやすい体質のこと)」という言葉を体感する。

1~10はこちら


0011

見えぬ目でヴラマンク見る美術展


目が見えぬ。瞼の裏の黒ばかり見る。美術館にももう行けぬ。黒い絵を思い出す。ヴラマンクの寒い冬の景色を描いた絵が、瞼の裏に描き出される。ユトリロの白い絵はもう見えない。ルオーが来る。ルオーの描いたキリストが光とともに近づいてくる。

0012

イガグリが今でも憎いブコウスキー


チャールズ・ブコウスキー(1920-1994)は、幼少の頃に患った疱瘡の跡が顔に色濃く残っていた。口の悪い同僚に「イガグリを顔に押し付けられ続けたようだな」と言われたことがあり、晩年までその同僚とイガグリを憎み続けた。(フィクション)


0013

すくえない秋の金魚は釣り上げる


夏祭りの金魚掬いで売れ残った金魚たちは、秋になると成長し、網では掬えない大きさになる。処分されることも。金魚掬い屋は「金魚釣り」と屋台号を変えて、客に釣り竿を与える。人気はないし、釣れもしない。また金魚は太り、救えなくなる。


0014

絶滅種白露寝床に消える朝


最後の小人が溺死した。秋を通り越して冬になりつつあった季節を甘く見ていた。寝床に選んだ草むらは、朝になると露が降りた。小人には多すぎる量であった。人間の捨てたワンカップ酒の残りで酔い潰れた小人は、死ぬ前に起きることが出来なかった。


0015

合図なし木の実降らずに戦えず


老いた武者が二人いた。因縁の戦いの決着をつけようとしていた。最後の戦いの舞台に選んだ樹の下で、木の実が落ちるのを合図にして斬り結び合うと決めた。二人には見えていないが樹は枯れていた。戦いはいつまでも始まらず、終わらなかった。


0016

晩秋やすべてのものに寿命あり


秋がもうすぐ逝くという。夏に別れを告げて間もないのに。今年は叔父と義父が亡くなった。自分も若くはない。全てのものに寿命があると実感出来るようになった。昨日の洗い物の残りを片付け、息子の相手をするうちに、もう朝がいなくなっていた。


0017

髪染めは野山の色に合わせたの


赤髪で句会に参加した彼女はそう言った。栗拾いの時にはブラウンだった。本当はもう総白髪だという。
「地毛のまま雪降る町に行きましょう」
北国へ二人で俳句を詠みに行き、そこを終の棲家とした。彼女はもう髪を染めることはなかった。


0018

露寒し素肌でないから寄り添える


朝が冷える。もうすぐ露も霜になる。連れ立って歩く人達の距離が近い。まだまだ恋だの愛だの言えない二人や、もう恋だの愛だの忘れた二人も、寄り添っている。寒さをしのぐためだと言って遠慮なく触れ合える。素肌を晒してない分気軽に、大胆に。


0019

冬支度国境線にソ連兵


次元大介はモスクワのバレエ団のプリ・マドンナであるモニカと亡命の旅に出ていた。アメリカでの生活を夢見るモニカと、現実を語る次元。ソ連・オーストリア国境の強行突破を目論むが、次元は捕まってしまう。ルパン三世第二期58話「国境は別れの顔」より。


0020

破芭蕉(やればしょう)羅刹女群れた宿の跡


羅刹女は秋の終わりに群れになって故郷へ向かう。悟空に渡した芭蕉扇が恋しく、芭蕉の茂る土地を宿とする。羅刹女たちの会話はいつも荒れており、芭蕉も八つ当たりを受けて破れてしまう。群れからはぐれた羅刹女を、カラスが追う。


Twitterにてハッシュタグkigo(#kigo)に合わせて詠んでます。

入院費用にあてさせていただきます。