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恒川光太郎「滅びの園」

 ぷにぷに。

 プニプニ。

 プーニー。

 プーニー、プーニー。

 大丈夫。正気。

 大半がプーニーの話である。
 プーニーとは、

 姿は白い餅そっくりの不定形の生き物で、柔らかく、手足、目鼻はなく、内蔵もないが、ゆっくりと動き、有機物をとりこんで己の栄養にする。体長一ミリ以下では死滅する。他の個体とも融合して、どんどん成長する。

 プーニーは<未知なるもの>が発生させたものらしい。

<未知なるもの>
 外宇宙から飛来してきた存在。中心に核をもつ大きなクラゲのような姿をしている。
 地球の大気圏上に<想念の異界>を作りだし、そこにほとんど動かずじっとしている。電波その他のコミュニケーションには一切応じず、次元の違う場所にいるため、物理的な攻撃はできない。核の色の変化は、プーニーの活性化と密接な関係があることを指摘されている。太陽と植物の関係に近く、<未知なるもの>の放射するエネルギーを吸収してプーニーは生きている。
 人類全体を無差別に襲う悪夢と、人類衰退の根本の原因ともされる。


 ある日突然地球に現れた<未知なるもの>、それが生じさせたプーニーにより、世界は危機に瀕している。だが<未知なるもの>の中心部に、一人の日本人が取り込まれているのが発見される。彼は<想念の異界>の中で、穏やかで理想的な生活を手に入れて過ごしていた。彼の住む理想郷と、プーニー地獄のような惨状でありながら、生きていかざるを得ない地球での戦いが交互に描かれる。2016~2018年に書かれたものだが、コロナ禍を予見したかのように読むことも出来る。令和以前に書かれた「スタープレイヤー」のラストで「レイワ」が出てくるし、恒川光太郎の著作は遠い将来預言書として読まれるかもしれない。

 様々な視点から世界の危機が描かれるが、どの対処が正解なのか、誰も分かってはいない。夢のような世界で生きるのは許されないことなのか? 世界を救う為に戦うのは尊いことなのか? プーニー化して消滅してしまうのは不幸なことなのか?

 新型コロナウィルスが大問題になり始めた頃、「ああ、世界はこんな風にしてあっけなく崩壊してしまうものなのだ」と思った。あれからもう随分経つが、世界はまだ続いている。息子の通う幼稚園の関係者でコロナ陽性者が出た為、園が休園となった。もちろん「滅びの園」は「ほろびのその」と読むので、うちの子の通う幼稚園のことを書いた預言書ではない。

 よく見れば、プーニーはコロナよりもずっと身近な所にいた。
 贅肉のついた腹を見下ろしてみる。


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