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退院後記録/音楽随筆集「You Know You're Right」NIRVANA

 医師に頼まれているわけではないが、頭の痛みの状況をまとめている。脳脊髄液減少症による3週間の入院生活後、退院して2週間の経過観察中、が現在の状況。退院から10日目。

 耳鳴りは依然として消えない。何かしら音のある状況では気にならないが、ふとした静寂や、就寝前には「これほどの音が鳴っていたのか」と驚くくらい。遠くで飛行機の離着陸が延々と続いているような感じ。

 発症理由は不明ではあるが、脊髄液は睡眠中に生産されるというから、睡眠のリズムが原因かもしれないと思い、分析してみた。入院初期にあまり眠れなくて睡眠導入剤を処方してもらっていたが、家にいる時と別段変わったわけでもなかった。

 22時就寝
 3時半ごろ目が覚める
 まだ早すぎるので二度寝
 5時過ぎ再び起床
 ↑この時点で起きると体調は良い。まだ早いからと三度寝して7時に起きたりすると、寝すぎて腰が痛い&何故か長く寝たはずなのに目の下に酷いクマができている。一日中調子が良くない。

 頭の痛みレベル
0 痛み、重みなし。
1 やや重みあり。
2 1より重い感じ。
3 もうすぐ痛みになる感じ。
4 痛みとなる。鎮痛剤服用ライン。
5 4より痛い感じ。
6 5より痛い感じ。
7 鎮痛剤の服用頻度を破るレベル。
8 ロキソニンで少し治る。
9 ロキソニンの効果もなし。
10 病院に駆け込み身動きが取れなかった状態。

 入院前の1週間は常時5〜6程度で、鎮痛剤を3時間起きに一日5回飲んでいた(実際には一日3回まで、6時間間を空けないといけない)鎮痛剤をロキソニンに変えてどうにか耐えた入院前日が7~8、ロキソニンが全く効果なくなった時を9とし、病院の待合室でぐったりとしていた時を10とする。

 安静治療初期が3〜4。安静治療後期が2〜3、退院直前が0〜1といったところ。
 自宅に戻っての日常生活を続けながらの経過観察中の現在、ここでも0〜1なら良かったのだが、実際は常時2と3の間くらい。身体に負担のかかることはしていないが、以前と同じように熱い湯船にじっくり浸かると、痛みレベルが4に上がり、入院初期以来初めて鎮痛剤を服用してしまった。他にも、いろいろな方との話し合いが合計3時間に及んだ後、疲れと痛みの前兆があったので、初めて昼間に長く休みを取った。

 常時2から3の間というのは、「痛みというほどではない」状態ではある。しかし「少し進めば鎮痛剤が必要となる体調」ともいえる。入院1週間前の仕事中が5〜6であったことを考えれば、少し身体に負担をかければ似たような状況になりそうだと考えられる。痛みに向けて、したくもない助走を続けているような。

 いつものように午前3時半頃目が覚め、二度寝して5時過ぎに起きる。本を読みながら長いトイレの後で、耳鳴りを塞ぐためにイヤホンをつける。NIRVANA「You Know You're Right」を繰り返し聴く。歌詞の和訳サイトを調べる。「痛み」というフレーズを長く長く伸ばして歌うカート・コバーンの、猟銃自殺直前のエピソードを読む。R・E・Mとの合同レコーディングへの参加を取りやめたカートは、もはやドラッグのディーラーとしか付き合っていなかった。しかしそのディーラーにすら「目の前で吸引されて死なれたら大変なことになる。売ってやるから、キメるのは他の場所でやってくれ」と冷たくされてしまう。

 なるべく頭を痛めないように生活する、鎮痛剤に頼らないレベルで安定させる、と意識する時点で、病が常に隣にあることに気付かされる。安静治療では病は遠ざかってはくれなかった。

 カート・コバーンの痛みと同列に語っても仕方ないが、頭痛持ちの歴史上の人物として思い浮かべたのが、三国志の主役の一人、曹操孟徳である。調べてみると、遺骸には歯が数本しか残されておらず、虫歯を大量に患ったことから、何かしらの病に感染しての頭痛だったのではないか、と推測されていた。名医である華佗を自ら投獄したため、頭痛は治まることなく、その後の魏の崩壊にも繋がっていく。

 あんたは知っている。あんたのいうことはいつだって正しいって。
 そんなフレーズを繰り返すカート・コバーンの歌声で、耳を塞いで耳鳴りをやり過ごす。

 そういえば以前の習慣を取り戻すために浸かった長風呂の後(その後痛みが出たため以後長風呂を禁じる)、宮本浩次「Do You Remember」を口ずさみながら風呂から出た。音程の高低差の激しい曲だ。苦しみながら歌ってみるが、当然私のか細い歌声は最高音まで到達しない。
「やっぱり病み上がりだな」
「もともと歌えてなかったから」と即座に妻に突っ込まれた。確かにあなたの言っていることは正しい。

(了)

Brass Againstによるカバーバージョン。




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