千人伝(二百八十一人目~二百八十五人目)
※今回は「人間椅子の楽曲から縛り」となっています。
二百八十一人目 芋虫
芋虫は這い上っていた。自らの内からの衝動に従って、登る必要などない坂道を這い上がっていた。薄くなった腹の皮膚の表面で白くて長いものが蠢いていた。俺はこいつに、と芋虫は腹の中の何かについて考えた。俺はこいつに促されて動いているだけだ。この坂道の向こうには目指すべきものなど何もないのに。家族もいなくなった。友人も消えた。恋人などいたこともなかった。この坂道の頂上にあるのはきっと、ぶくぶくと太って蠢くだけ