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ビールと餃子と蒸しパンと

一週間の仕事を終えて、私は家に帰りました。手には、帰り際にコンビニで買った缶ビールを2本ぶら下げています。

「ただいまー」と玄関からリビングに続くドアを開けると、5歳の娘が「おかえりー」と迎えてくれました。「今から寝るところ」という娘はとても眠そうな目をしています。
そして、「今日、ばあばと蒸しパン作ったの。パパの分もあるからちゃんと食べてね。とってもおいしいから」と言い残し、「おやすみー」とママが待つ寝室に消えていきました。

私はキッチンに行ってグラスを取り出すと、すぐにビールを注いで胃に流し込みます。ホップの爽やかな香りと心地よい苦味が、緊張した体をほぐしていきます。「くうーっ、うまい!」そう言って一呼吸ついたのも束の間、私はさてどうしたものかと考え始めました。

なぜかというと、ビールを片手に持つ私の目の前には、さきほど娘が言っていた例の蒸しパンと、焼き餃子が用意されていたからです。

ビールと餃子と蒸しパン。

どうやって食べるのが正解なのか、私はビールをすすりながら考えます。

ビールと餃子は言わずもがな相性抜群です。餃子はビールの旨味を倍増させ、ビールは餃子の油を洗い流します。お互いの良さを引き立て合う組み合わせと言っても過言ではありません。

それに餃子と蒸しパンというのも、今までにはない組み合わせのようにも感じますが、よくよく考えてみると、肉まんを分解すれば蒸しパンと餃子のようなものなので意外と相性はよさそうです。

しかし、ビールと蒸しパンというのはどうでしょう。どう転んでも相性がよいとは思えませんでした。

とは言ってもせっかく娘が作ってくれたのですから、まずは蒸しパンから食べることにしました。「うんうん、たしかに美味しい」。娘がとってもおいしいからと言うだけのことはあります。ふんわりした食感と、ほんのりと優しい甘味がちょうどよいです。

ですが、やはり蒸しパンは蒸しパンです。ビールで潤っていたはずの口の中の水分を、ことごとく奪い去っていきます。

ならばこれはどうだと、私は蒸しパンを一口齧り、すぐさまビールを口に含んでみました。まるで南イタリアのナポリ人たちが、ラム酒にババをたっぷりと染み込ませるように、私の口の中で、蒸しパンに黄金色の液体がたっぷりと染み込んでいきます。

ちなみにババとは、スポンジケーキのようなものにラム酒をたっぷり染み込ませて食べる、南イタリア定番の大人のスイーツです。

口の中では固形と液体の中間のような形状の蒸しパンが、シュワシュワと音を立てながら揺れています。「悪くない」そう思った私はそれをごくりと飲み込みます。しかし、どろりとした喉越しと、口の中に残る苦いようで甘い後味はなんとも言えない心地悪さでした。

やはり蒸しパンとビールの相性は、あまりよくないみたいです。

蒸しパンを食べ終えた私は、次に餃子をいただきます。最近我が家で人気の浜松餃子です。付属の餃子のタレにお酢を少し足して、一口でパクリ。30回噛むのを数えから飲み込みます。そして間髪入れずにビールも流し込みます。

「そうそう、コレコレ」。やっぱり餃子とビールの相性は抜群です。

やはり食べ物と飲み物というのは、組み合わせがとても大切なんだなと、改めて考えさせられます。

2つ、3つと食べ進めていくと、胃に中に溜まっていた炭酸ガスと一緒に、ニンニクとニラの香りが込み上げてきました。そして一週間の疲れを体内から放出するように「ふーう」と大きく息を吐きだすと、そこにはほのかに甘い香りが含まれているのでした。






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