「ペチュニアの咲く丘に」#11 ペチュニアの花
第11話 ーペチュニアの花ー(完)
習字教室から帰ってきた咲良は、リビングで花を生けている杏子に会った。
「お帰り〜」
そう言って花に集中している杏子。
咲良は生けている花の素朴な佇まいが気になった。
「そのお花なんていう名前なの?」
「これはね、ペチュニアという名前なのよ」
「へぇ!シンプルだけど一輪あるのと無いのとで印象が変わるね」
「そうかもね」
杏子は優しく微笑んだ。
「この花は面白くてね、咲いている色や咲き方で花言葉が変わるのよ。私が生けてるこの花は八重咲きでね、花言葉は【変化に富む】なんだって。この世の中、個性や主張を言える人が注目されがちだけど、個性を秘めてる人もいるじゃないかと思ってね。押し付けずにみんなそれぞれでいいんだって思わせてくれる花なのよね。」
咲良はふと真司と付き合っていた頃、真司の友達も集まりカラオケに行った時のことを思い出していた。
真司の友達は音楽関連の人が多い。
咲良はそんな人たちの前でカラオケを歌うのが、友達の前で歌うのと訳が違うと躊躇っていた。
その時真司がデンモクを渡しながら言った。
「いつまでも名脇役でいいのかよ。」
咲良はその時、密かにムカついていた。
主役が偉い訳?縁の下の力持ちって言葉知らないの?周囲に真司の友達もいたので咲良はその感情を押し殺し、しぶしぶ好きな歌を歌った。
「変化に富むかぁ〜。杏ちゃんありがとう!なんか今の言葉聞いて、私元気が出てきた。」
杏子はポカンとしていたが、それから、また優しくにっこりと微笑んだ。