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不登校者(第四稿)

不登校の思想というものがあって、前世紀の疎外概念から発達したもののようにも思えるのだが、自分が弱い立場に戻ってからそれがようやく意識できるようになった。生きる力を削ぐ空気というものは存在するのだ。それは端的に言葉を奪う。

あらゆるお仕着せの思想の場に対する抵抗と拒否。場=fieldとは、物理学における磁場や電場という言葉が示すように力の階層の別名でもある。人間世界においては、それは無言の権力の行使なのである。

強者が強者である所以はそのような場を作る能力にある。不登校者が忌避するものの本質がそこにある。物理学における「場」同様にそれは目に見えない。不登校者とは不可視の権力をすり抜けようともがく者の別名でもある。

        *

学校に行かない不登校者はひとり釣りに行く。遠く白く灯台の輝く堤防の切れ目の先は既に太平洋だ。時折巨大な波が堤防を越えて白い咆哮を沸騰させる場に椅子を置く。なにも釣れない一日の終わり。不登校者は星空の寝袋に包まれる。

夜は夢を見ない。力に包まれて朝を迎える不登校者は魚たちのように蘇る。魚たちのようにエーテルを感知する。不登校者にもはや怖れるものは何もない。

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