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人力の銀河系

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鏡男。この男と付き合う人間は徐々に彼の醜い「裸」が自分の姿としか思えなくなって来る。そのあげく自己嫌悪のあまり発狂するという。もっともこれはその人物に良心がある場合に限られるが。彼の重臣に悪人しかいないのはそのせいだ。
 
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白土三平『忍者武芸帳ー影丸伝』読了。白土三平による「日本農民戦争」。本願寺の指導者顕如による農民(影丸)に対する「裏切り」がクライマックスになる。一方の織田信長を特徴付けるキーワードは「根切り」で叛乱農民(忍者)を赤子から老人まで文字通り根絶やしにすること。したがって物語を特徴付けるキーワードは「裏」、「根」、「切断」の三語である。裏=忍者、根=農民、切断=武士。

白土三平で思い出すのは昔『ガロ』で読んだタイトルを忘れている荒唐無稽な「科学的」忍術が魅惑的だった作品、少年マガジン連載の『ワタリ』、本屋で立ち読みした『サスケ』、中学校近くのカレー屋に通って読み通した『カムイ伝』等。

生産しない戦争屋の「切断」が天下を取る人類の宿痾を描く

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今日考えていたこと(これはすでにT先生の著作にもっとsophisticateされた形で・advancedな形で書かれている・いたかもしれないと思いながら)は「自我」もまた「體」の発展段階のひとつであって、そこに受肉すべきものが「ロゴス」なのである、という考えだった。単なる思いつきと言えばその通りなのだが、ロゴスの受肉すべきトポスが宇宙に只一箇所あり、それが「私の」自我なのだという考えに至った私は戦慄を覚えた。言葉の神秘には不可解なものがあり、沈黙する者がもっとも多弁であり、饒舌なる者がもっとも寡黙であるかも知れないのだ。少なくとも「自我という體」においては。

あなたが「個」と「多」の双対性に気付くとき

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「ひとつの元xだけから成る集合{x}も、x自身とは別の数学的対象として認められる。こういうものを1元集合という。」
          (斉藤正彦『数学の基礎 集合・数・位相』)

分断はますます進むだろう。われわれは同じ空間にいながら別の意識を生きなければならない。人間世界が退化する時代には一元集合{x}として自覚した個人が根源的な世界に退くことも許されるにちがいない。一元集合{x};社会という集合{xi;i∈population}と対等な只一つの元から成る集合。

世情に絶縁する初秋、闇夜、番号は無い

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心よ、怒りよ、静まれ・・・

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思え、
宇宙の呼吸は長い
オルガニスト・メシアン
宇宙の呼吸を模倣する
人力の銀河系。

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