#73 キャリア教育を再考せよ!

先日、6年生の補欠授業監督に行った際のこと。一人一台端末を使ってカタカタやっているなあと思って覗き込んだところ、「小学生の職業調べ」なる文字が、液晶に踊っていた。キャリ教育の一環であろう。正直なところ、「んー、うまくないな」と。この手のキャリア教育のメソッドに、私は懐疑的なのである。ワークシートには、ユーチューバー、警察官、トリマー、イラストレーターなどなど。「YOUは何でその職業を調べているの?」と質問したところ、「ええ、まあ、なんとなくっス。」、そうだよね、いつの時代も僕たちの職業選択は気まぐれ。


学習指導要領には、どのようにキャリア教育について記述されているのだろうかと思って、ペラペラとめくってみた。総則には、『児童が、学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう、特別活動を要としつつ各教科等の特質に応じて、キャリア教育の充実を図ること。』、そして、『夢を持つことや職業調べなどの固定的な活動だけに終わらないようにすることが大切』と書いてある。これ、職業調べだけでフィニッシュしたらあかんやんけ。まあでも、小学校にはダイレクトに進路に関わる部分がないから、しょうがないっちゃしょうがないのかもしれない。


話を教室に戻そう。調べたい職業が思い浮かぶ児童はまだいいが、何名かの児童は「なりたい職業?ないです。そもそも仕事って何のためにするんですか?」と、補欠監督にきた私に逆質問する始末。一昔前なら、「そりゃあYOU、ご飯を食べていくためさ。」と背負い投げで一本だったが、今の世の中は、一概にそうとも言えない。みんながイメージしているような、「THE仕事」をしなくても、実際にご飯を食べていける人がいるからである。


そうであれば我々は教育者として、学習指導要領の記述にもあるように、学ぶことと自己との将来の見通しをもたせることがアプローチのしどころとなってくる。そして、この部分と直接関係あるかどうかは分からないが、私は「仕事をしているかっこいい大人」を児童に見せていく機会を、どんどん増やしていくことが、キャリア教育の簡単なとっかかりだと思っている。


昨年1年生が、学校の近所にある、大型重機を扱っている建設会社に訪問させてもらう機会を得た。見学を終えた児童たちは、一堂にとてもキラキラ(抽象的表現でゴメン)した表情をしていた。「ねえ、今日の見学で一番心に残ったことって何だった?」「あのさあ、とっても大きいクレーン車に乗ってみてね、これを動かしている人ってすごいなあと思ったよ。ていうかね、そのクレーン車の運転席に乗ったんだよ。すごくない?」と興奮気味に話してくれたことを覚えている。これだ、これなのだ。すごいなあ、かっこいいなあ、あれやってみたいなあという体験の積み重ね。インターネットの向こう側に提示された、職業図鑑の先にはない、リアルがここにあるのだ。


再度学習指導要領に戻るが、「開かれた教育課程」という記述がある。これは何もキャリア教育に限ったことではなく、教育課程全般に言えることだ。我々のリサーチ不足なだけで、どの学校の周りにも、きっと多種多様な仕事を生業としている人が存在しているはず。その方々と児童をリンクさせて、学ぶことと自己の将来とのつながりを見通すことができる児童を育成することが、立派なキャリア教育だし、小学校教育的には、とても本質的なことだと思う。


多様な働き方があっていい。小学校のうちから、そういう価値観をもたせてあげたいものだ。そのためには、我々教員がもつ、仕事に対する意識や価値観を常にアップデートしていく必要がある。例えば職業調べをするにしても、調べる職業の枠が一個しかないワークシートを使用していないか?副業や広義の意味での複業が認められている世の中なのに、職業として行っていく仕事は一つと決めつけてはいないか?格闘家の青木真也はこう言っていた。「100万円を稼げる仕事を一つもつより、10万円を稼げる仕事を10個もつ方が食いっぱぐれがない。」と。もしかしたら、これからの世の中はこう行った考えが主流になるのかもしれないし。


やっぱり教育って面白いなあとあらためて思った。そして、たった45分補欠監督に行っただけで、思考がこんなにも拡張した。児童は私を見て、教員という職業を選択肢の中に入れてくれるだろうか?私は、目の前の児童にワクワクを与えられているのだろうか?「教師って職業、カッケーな!」と思われるよう、邁進しようと思ったのと同時に、多様な生き方を体現する大人でなくてはならないとも思った。

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