やりたいことがない人のためのキャリア形成論
はじめに
これはいちばんやさしいdora_e_mの Advent Calendar 2020、つまり一人アドベントカレンダーの25日目の記事です。
最終日となる今回は、頻繁に相談される「やりたいことがないんだけど、どうやってキャリアを築いていったらいいか」という問いに対する、私なりの回答を書き記していきます。
キャリアイメージ、ありますか?
みなさん、キャリアイメージはお持ちでしょうか。自分がやりたいこと、なりたい像はハッキリしているでしょうか。ハッキリしているなら、この記事は不要かもしれません。
やりたいことがない、何を目指したらいいかわからない。自分もそうでした。今だって、「これをやらずにはおられない」という使命感で昼も夜も情熱を燃やしている、という状態ではありません。それでも、成し遂げたいことや貢献したいことはありますし、プライベートを差し置いてもやりたいようなことが今の自分にはあります。
これは、やりたいことがない人がキャリアを形成していく上でのヒントを、自身の経験をベースに提示していく記事です。
10年後のキャリア像
「10年後、どうなっていたいですか?」ー採用面接の時点や年次の浅い時期に、同様の質問をされたという方は少なくないでしょう。
終身雇用が大前提となっていた時代であれば、これはその所属する組織においてどの階層まで行きたいか、という問いに置き換えられました。しかし2020年現在では、必ずしもそうとはいえません。その理由について解説します。
まず転職者数に着目すると、毎年およそ300万人以上が転職しているということがわかります。特に2013年以降は「より良い条件の仕事を探すため」の転職数が増加していて、これはキャリアパスを考えたときに、一つの組織で積み上げる以外の選択肢を選ぶ人が増えていることを示しています。
そして、組織構造自体がフラット化しており、階段上に役職を登るという従前のキャリアパスイメージ自体が適用されない場合もあります。
これらの状況変化からもわかるように、レールに沿ったキャリアパスというものは姿を消しつつあります。となると、自らキャリアパスを切り開いていくことが求められるのですが、ここに多くの人が思い悩んでいます。
キャリア迷子
ソフトウェアエンジニアなど技術職であれば、よくあるキャリアの分岐点は「マネジメントか技術か」というものがありました。
私の前職でも「マネジメントラダー」「テクニカルラダー」は明確に分けられていたと記憶しています。
しかし、そういうわかりやすい階層は、前項で述べたとおり姿を消しつつあります。またキャリアは一方向ではなく、マネジメントに専念したあとまたエンジニアとしてのキャリアを積む、といったケースも見受けられます。
そして、こうした変化が組織内で起こっていた場合、自らが目指していた地点がなくなってしまう。もしくは、いまいるところさえなくなってしまうということが起こりえます。こうして人はキャリア迷子になります。
やりたいことがあるわけではない。けれども、ずっと今のままでいたいわけでもない。というか、今のままではいけないという焦燥感がある。でも、何をすればいいかわからない…。そんな循環に陥っているのであれば、まず「今やっていること」に焦点を当ててみましょう。
モチベーションマトリクス
やりたいことがハッキリしている、目指すべきものがあるー。そういう人は、自分自身の中に羅針盤を持ち、自らそのゴールを見据えて行動していけるでしょう。
そうではない人がゴールを、キャリアパスを見出していくために、目の前にある仕事だったり「やらなきゃいけないよなー」と思っていることを2次元のマトリクスに分類してみます。
「自分が」「やりたいこと/やりたくないこと」、そして「周囲から」「やってほしいとおもわれていること/特に期待されていないこと」で分類します。
この時点で、「やらない理由がない」または「熱意」の象限に何かしらのタスクが分類されたなら、それがあなたのやりたいことです。「やりたいことがない」と思っていたけど実はあったパターンで、可視化された今、その「やりたいこと」を磨き込むことでキャリアアップにつながっていきます。
(「熱意」象限は、今の環境では他者から求められていないものですが、市場環境の変化だったり職場を変えたりすることで「やらない理由がない」に変わる可能性があります。自分を信じて研鑽を続けましょう)
そして、「虚無」に分類されたもの。これは誰も得しないので、捨ててしまいましょう。
最後に残った「修行」の象限。「やらない理由がない」ものも「熱意」に該当するものもないという人は、ここをベースに「得意かもしれないこと」「潜在的にやりたいこと」を見つけていきます。
「計画的偶発性理論」というものを聞いたことはあるでしょうか。キャリアの大きな部分は偶然によって成り立ってる、その偶然が舞い込んだときに意識的にキャリア形成へと組み込んでいこう…というような理論です。
やりたいことがハッキリしている同僚と肩を並べると、そうではない自分がちっぽけなものに感じられるかもしれません。でも、気にしないでいいんです。キャリアの8割は偶然が引き込むのだから、その偶然をモノにする、という姿勢だってなかなか捨てたものじゃないです。
実績と自信のループ
「修行」の象限にあるものを、とにかく実行していきます。気が進まない?「やりたい」と思っていないものだから、そうかもしれませんね。けれども、「やりたいことが特にない」あなたが「やりたいこと」を探すには、そこからキャリアを形成していくには、まずは「目の前にある仕事がやりがいにつながるか」を検証する必要があります。たとえば「なぜそれをやるのか」とWhyを探求したり、「誰が喜ぶのか」「何が生まれるか」とWho/Whatに着目して考えるなどすると、いくばくか「やってやるぜ」という気になることでしょう。
どうにか自分を奮い立たせて実行すると、それは実績になります。生み出された実績はあなたの自信になります。そして自信が生まれると、積極的に物事に取り組むことができます。こうして実績と自信の正のフィードバックループが生まれます。
ここで実績が積みあがると、自分自身の「自信」だけではなく周囲からの「信頼」につながっていきます。その信頼は、あなたのキャリアパスに新しい役割を呼び込んでいきます。
私自身の経験談も共有しておきます。とあるチームに所属していた時分に、チーム内から挙がる「改善アイデア」がなかなか実行されないという課題がありました。ここを粛々と実行していると、「なんだ改善できるじゃん」という自信が生まれ、周囲からは「あいつ改善できるじゃん」と信頼され、のちにマネージャーに任命されるきっかけとなりました。
実は、「やりたいこと」が見つからない、期待されていることの実行を積み重ねるだけでも「キャリア」を積み上げることはできます。ですが、もし環境が激変し、あなたに仕事を与えてくれる人がいなくなったとしたらどうでしょう。
12年前、私はこの状況に陥りました。リーマンショックのあおりを受け、当時社会人2年目にして早期退職を余儀なくされた私は、自分が何もやりたいことを持っていないということに気づかされ愕然としたのです。
(余談ですが、当時は転職する際の募集要項に「3年以上の経験」が明記されていることがほとんどで、転職先を探すのにとても苦労しました。1年目だった後輩はエージェントから「1年目から転職するなんて根性がない」と叱りとばされたり、世の中が今より理不尽でした。)
その後なんとか転職先を見つけ、そこでは主体的にやりたいことを見つけていくようマインドシフトしていったわけですが、ではどのように「やりたいこと」を見つけるのでしょうか。
私生活に踏み込む
詳細な説明は省きますが、「GTD」という仕事術があります。
このGTDでは私生活も仕事も区別せず、すべての頭の中にあるタスクを書き出していきます。洗い出したタスクに優先順位をつけていく際、「やりたいことがない」状態であれば、すべてのタスクは私生活より下位の優先順位になるでしょう。
このタスク洗い出しを、「実績→自信ループ」を回しながら何度か実施していきます。すると、どこかのタイミングで私生活の一要素より大切に思っている仕事の一要素が表れてきます。これはなぜかというと、実績を上げ承認されるという出来事そのものが動機を育てるからです。
これがあなたの「やりたいこと」です。正確にいえば「やりたいことの種」です。
たとえば、それまでは通勤時間にスマホゲーをやっていたけど技術書を読む時間にあてたくなっただとか、そういった些細なことがこの「やりたいことの種」に該当します。わたしにとっては読書、そしてアジャイル開発の探求がここに該当しました。
このように自覚的に「これは自分がやりたいことだ」と認識することが重要です。ある種の自己暗示として「やりたいこと」と認識するため、自然とそこに時間をさけるようになるのです。主体的に取り組むことでスキルが上がり、スキルが上がるとそこには仕事が舞い込みます。仕事あるところに実績と自信のループありで、そこからキャリアが形成されていくのです。
まずは「求められること」からでいい
あなたが組織に所属しているのであれば、何かしら求められていることはあります。自分でやりたいことが明確に見つけられないのであれば、まずはその「求められていること」を愚直に実行していくのがよいでしょう。
モチベーションマトリクスで分類し、実績と自信のループを回し、GTDで自分の中のモチベーション変化をとらえる。これを積み重ねていくことで、きっとあなたのキャリアが見えてくることでしょう。
いますぐにキャリアが見えてこなくても、焦ることはありません。ゆっくり、自分のペースで、自分と向き合っていきましょう。
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