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世界の終わりより酒だ。

 休日、16時ごろのコンビニは良い。休日という、全てから解放された身軽な日。そして、陽もやや落ち着き始める16時という時間帯。

 私は着倒したクタクタのTシャツと短パンに便所サンダル。という、女らしさとはかけ離れただらしない格好でビールを物色する。

 16時ごろのコンビニは人があまり居ないから本当にいい。まあ、たまたまかもしれないけど。目の前に広がるアルコールエリアが、このコンビニを夢の国のように見えさせる。私はその中から厳選した一本と炭酸水を手に取り、つまみを厳選しに向かう。

 私はコールスローサラダを選ぶ。これは絶対外さないレギュラー選手。

 コールスローサラダとビールは合わねえだろなんていう奴がいたら、金属バットで頭かち割ってやる。それくらい私はコールスローサラダが好きだ。ひんやりシャキシャキ、野菜の甘みとレモンの酸味が味を爽やかにさせる。それをビールと共に流し込む。想像するだけで爽快。最高じゃないか。

 私の胸は今猛烈にときめいている。酒とつまみたちに猛烈に恋をしている。この波乱な胸の内は少女漫画を読み倒す女学生たちに匹敵する。急いで帰らねば。と、店員を前にした私という女学生は会釈と「ありがとうございます。」という言葉をほとんど体を出口に向けた状態で放ち、コンビニを出る。

 扉が開き、乱痴気騒ぎのように押し寄せる不愉快な暑さ。ブワッと滲み出る汗は、数メートル歩くだけで、肌をなぞる。この苦行。家まで続く苦行。これを我慢して、私はビールにありつく。選ぶ楽しさの後の苦行が意外と大事だ。一旦苦しみをひとつ味わう事で、ビールの旨さを極上のものにする。夏の私はそう信じて、乗り切っている。

 鍵を開け、ドタバタ言わせながら部屋に入り、速攻エアコン起動。呼吸を整えたところで、一度、散らかり切った部屋を確認。仕事終わりの私の抜け殻がそのままになっている。

 よし!と、私は声に出すと、透き通り、艶やかなビールグラスを手に取り、そこにビールを注ぐ。黄金色に輝くぶっとい宝石の上部には、極上の優しさを感じさせる泡が健在していた。きったねえ私の部屋をバックに見る7:3の黄金比は美術品だ。

 私はクーラーをつけているにも関わらず、窓を開け、太陽を前にビールを飲んだ。喉を流動するこの感覚は、胃と腸を超え、やがて銀河に到達する。グラスから口を離すと、私の口からは、CMに出れるんじゃないかと思う「ぷはぁ!。」という声。空気がようやく回り出し、体が正常に動き出す。そして、脳が踊り始める。

 落ち着きを見せ始めた太陽と、背後に存在する汚いグロテスクな私の部屋と世界。私は前だけを見続けながら、ビールを飲み続ける。このまま世界が終われば私はなんて幸せなのだろう。

 そう思っていると、ビールが無くなったことに気づく。世界の終わりより酒だ。私は窓を閉め、買った炭酸水を手に取る。ボトルで置いてあるウイスキーでハイボールを作るために、私は世界に戻った。

 

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