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ドルフィン・スイム

ハワイ島で一度、体験してみたいと思っていたことのひとつは
ドルフィン・スイムだった。

想像していたドルフィン・スイムは、
いるかが大きなプールみたいなところにいて、
イルカに触ったりもできる、
もっといるかと触れ合えるようなツアーかと思っていたのだけど、
ハワイ島のドルフィン・スイムはもっとワイルドだった。

ケアウホウ湾から出発するそのツアーは小型ボートに乗って、
イルカが泳いでいそうな海域を目指し、
イルカを見つけたらそこに小型ボートから
シュノーケリングでエントリーして、
イルカのそばで一緒に泳ぐという感じ。

早朝に小型ボートで出航するそのツアーのゲストはその日、
友達とわたしのふたりだけの貸切でご機嫌だった。

さっそく、小型ボートを運転する日焼けして
精悍な感じのお兄さんとガイドのサーファー風の女性の
4人でボートに乗り込んだ。

すると船にエンジンをかける直前に、
そのサーファー風の女性がおもむろに、
ボートの先端付近にそっと立った。

何が始まるのかわからないまま見守っていると、
彼女はおもむろに両手を天に差し伸べたかと思うと、
何かを歌うように声を響かせた。

驚いていると、ドライバーのお兄さんが、
あれは「ハワイアンチャント」というんだよ、と教えてくれた。

船が海に出航する時や、
パワースポットや神聖な場所に入る時に
神さまにこれから侵入してもいいですかという
許しを得るための祈りのことばで、航海の無事と安全を祈るそうだ。

その神聖でおごそかな雰囲気に、
さっきまでサーファー風だと思っていた女性の後ろ姿は
まるで巫女のように神々しく見えた。

こんなにも何気ない日常の中で、
祈りの言葉を欠かさないハワイ島の人たちの常に自然を
畏れ敬うことを忘れていない姿勢になんだか共感して、グッときた。

日本でも海や山や川には神が宿っていると
ずっと昔から言われているからなのか、
日常にそうした祈りを捧げる習慣は気持ち良いと感じたのだ。

ハワイアンチャントの祈りの調べを聞いているうちに、
なんだかすっかり、ゆったりとした清々しい気持ちになった。

そして、小型ボートはゆっくり出航した。

すると今度はパイナップルやぶどうやりんごなどの
フルーツとクッキーが山盛りのトレーと
暖かいコナコーヒーの朝食がでてきた。

早朝の海の上で心地よい風を切りながら、
まだ穏やかな優しい太陽の日差しを感じて遠くの山を見ながら、
ハワイアンチャントで浄化されたような自然と
一体になった気分で食べたフルーツは本当においしかった。

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その後、エンジン全開で波を蹴散らしながらボートを飛ばして、
イルカを見つけると、
いそいで海にドボンと飛び込んでイルカと一緒に泳いだ。

イルカたちはわたしたちのまわりでくるくると回りながら
見事なジャンプを何度も披露して、またどこかへ泳いで行く。

それをまた追いかけて、
また海に入るのをお昼になるまで繰り返して、
初めてのドルフィンスイムは終了した。

なぜかイルカより、
ハワイアンチャントとボートの上での朝ごはんが
忘れられない思い出になった。

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