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逆噴射小説大賞2020 ゾウ印ピックアップ6選

 ギャッ! こんにちは!
「逆噴射小説大賞2020」最終日の前日、わたしによるピックアップの時間だよ!
 全部読めたわけじゃないけれど、なやんで6作を選んでコメントしてみました。
 面白さは保証するのでみんな読んでみてね!! ちなみに作品の並べ方は「これがミニアルバムだとしたら曲順は……」みたいな感じ。


【超・宣伝】
 俺が応募した5発はこれです。

逆噴射小説大賞2020 我が応募作5品まとめ
https://note.com/dontbetruenote/m/md77659503c5f



■■■はじまり■■■



①ロケット/ジュージさん



 一読すればわかる。これはすごい。説明もなんもなしにいきなり人が死んでそこから「なにっ」が連続して繰り出される。
 よく見れば疾走しつつもなるほどここは普通のご家庭ではないんだなという描写が埋め込まれている。そのウデマエ。
 この流れならタイトル通りにロケットランチャーとかが出てきてもおかしくないよなと感じさせていたところにまさかの存在が登場して「な、なんだぁっ」と叫ぶほかなくなる。どうなるんだこの話は!!
 潔さとトントン拍子ぶりに心奪われた。とても続きを読みたいので、心のCORONAをひとケース送りたい。



②ブラックマンデー/了べさん

 
 一行目からキてる。今年のベスト一行目のひとつだろう。近未来を舞台にハードにボイルドされた世界観がピシピシと小気味良く伝わってくる。暴力の風味とアクションも躍動的で素晴らしい。
 と思っていたらトラブル。なんだこりゃあどうなっている、と思っているってェとなんたることだえらいことになったぜ! こりゃあ面白ぇ!!
 そして改めてタイトル・ヘッダー・一行目を見るってぇとオオッ、な、なるほど……! 得心がいってウウムと唸るばかり。この人は相当の使い手である。みんな褒めてるのもわかる。
 スーパー見事で先が知りたいので心のCORONAを送りたいがさっき送っちゃったため、心のドリトスを一箱さしあげます。




③『蘭之助、もう吠えないのか』/白蔵主さん


 
 一読すればわかる。皆さん書いているがこれはすごい。「ロケット」「ブラックマンデー」の速度からうってかわって積み上げるように丁寧な背景と過去描写が重なる。
 だが説明に堕しておらずテンポのよい一行また一行を読むごとに陰惨でつらさが増していく。でも呪術の仕様がコレだけに、ほんの少しだがユーモアも漂ってしまい、それがまた主人公の苦悩を深める。まぁ実になんとも上手い。痺れる。
 あと「美貌の薩摩隼人」な蘭之助と、「力を与えた妖怪」とのなんとも言えぬ奴隷と主人的な関係性、これが大層エロい。先々妖怪に一種の愛のようなものが芽生える可能性もある。
 冒頭のもって回った言い回しも好きだ。CORONAもドリトスもあげちゃったので、うちにある『平田弘史傑作選』全3巻を心の中でさしあげます。



④牙に生え変わるとき/摩部甲介さん


 一読すればわかる。これは黒い。とても黒いのだ。わかるか。
 「黒煙」に「黒く汚れた男」、窓に張りついた手形も赤黒いはずだ。そしてバッグの色の描写はないがたぶん黒いだろうと確信させる。それにしても「子供程もある大きなパンパンのバッグ」という描写が超すごい。このヤバい状況に完璧にマッチしている。そして最後に首をもたげるは、女の真っ黒い怨念。つまりこれは黒い小説なのだ。
 昨年の最終コメンタリーで「エグみがあるぜ」と言われた作者がそのいいエグみを残しつつ物語にドライブもかけてきた。ワーッえらいこっちゃ。
 続きが書かれたのなら相当にスゴいものができあがるだろうし、フライドチキンの消費量もすごいことになるだろう。うちにある平山夢明『DINER ダイナー』のサイン本を心の中で進呈したい。
 



⑤塹壕の中に無神論者はいない/バールさん


 一行目、これがもう超かっこいい。これがよくわからない人は『映像の世紀』とかを観よう。
 新時代の兵器が突っ込まれた第一次世界大戦のど真ん中。泥と血にまみれた「待機」の地獄を、作者は厚みのある筆力で太く短く描いていく。ここがまず強い。
 そこに場違いに現れたるは……。救世主か悪魔か、はたまたその両方か。「強い年寄り」というだけですでにキャラは立っているのだが作者はそこで甘えない。最小限の描写でただ者ではない、と思わせる。そしてラスト、俺がアメリカ人なら「オゥシット! ワッタ……」と言っている。アガる。
 これが作品としてまとまったらさぞかし面白いものになるだろうなぁと考えつつ、以前沖縄で買ったライフルの弾を使ったキーホルダーを心の中で送付したいと思う。



⑥バラァジ・オブ・ソナチネ/ギー さん


 最後のピックアップ。これは一読目ではわからないかもしれない。荒廃した街だが人は死なないし爆発も起きない。キャッチーな出来事はない。
 だが腹の奥を掴まれたような感覚が気になって、何度か読んでしまうはずだ。そのうちあなたは気づくだろう。「これはすごい800文字だ」と。派手な代物は置いていないのに、クッ、クッ、クッと膨らんでいく緊張と空気が確かに感じられるのだ。
 そう、本作はとにかくしっかりしているのである。足腰が強い。体幹が太い。銃撃、格闘、爆発、死亡、発狂、全裸などの掴みがなくても、「小説パワー」があればここまで「強い」ものが出来上がる。次はどうなる!? ではない。絶対に何かが起きる、その予兆に満ちている。
 このモノホンの強度にはほとほと参ってしまったので、『エースをねらえ!』全巻を心の中のクロネコヤマトで送りたい。



◆◆◆まとめ◆◆◆


 応募期間の終わりまでまだ30時間ほど残しているが、私のピックアップはこれでおしまいである。 

 今回は常連/ニューカマー両方の皆さんの作品が総じてストロングだ。カテェのだ。
 桃之字さんによる確かなデータ(アリガタヤ……)↓↓↓

 によると、今年は初参加者がかなり多いらしく、新しい波と新鮮な血の匂いもする。なるほどこのようなPULPもありうるのか……と思わせる“開拓者”もいる。 
 MEXICOの荒野に、それぞれ得意の武器を持ったタフガイ&タフウィメンが集い、太陽の照りつける下で睨みあっているような状況であろうか。「祭り」の楽しさもありつつ、そこはかとない緊迫感もある。

 期間内なのにすでに続編が書かれていたり(どれも抜群に面白い)、「もう書き終わったぞ🍅」と宣言する人がどんどん出てきているのも新展開だ。

 800字をヤァーッ!とやっつけるのも楽しいけど、そこから(あるいは加筆・改訂して)ひとつの作品に仕上げてみるとなんかこう、自分がグッと強くなったような気持ちになる。「やりとげる」というのは心の健康にいい。
「えーっ、勢いで書いちゃったから、続きなんてわかんないよ……」なんて言わずにやってみてほしい。去年考えナシに「賞金をかけた男の生首が106つ届いた。何が起きたんだッ」という800字が長編になっちゃったバカが言うのだから間違いない。
 心身と時間に余裕のある人は長中短問わず、続きを書いて【完】まで書いてみてはいかがだろうか。
 っていうかね、最後に【完】って書くとき、メッチャ気持ちいいですよ!! やったぜ!! おれはすごい!! ってなります。


 ……俺か? 俺はもう続きを書いている。どの作品かはヒミツだが、たぶん中編くらいのボリュームになるかと思う。ただし俺の予期する文字数はいつも大幅に越える……
 去年は自転車操業で書いたので、半分くらい書いてから連載していくつもりでいる。長編小説を隔日更新したり、掌編怪奇話を日曜を除いた毎日更新したりする無茶なペースはあんまりよくない。実際にやったバカが言うのだから間違いない。


 それではまた、荒野でお会いしましょう。
 あなたの創作の種が葉を出し、花を咲かせ、実を結びますように。







【おわり】


P.S. 「後夜祭作品」として、11月1日0時にオマケの一発をお送りします。百合というやつに分類されるかもしれません。

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