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【短編小説】[特-0001] 川岡猛浩 探検隊シリーズ/緊急生放送! 中国・絶叫省の奥地に、巨大マンドラゴラが自生していた!!

☆参考資料




[録画、開始]


[再生]


(当時の中国、都市部と思われる風景が映し出される)


(効果音)
デギョーーーン!!!


(字幕1)
 川岡猛浩
 探検隊シリーズ
 

(字幕2)
 緊急生放送!
 中国・絶叫省の奥地に、巨大マンドラゴラが自生していた!!



暗転
ライトが点灯し、丸い光の中に「VHSテープ」が映し出される



(男性1=ナレーション)
 これが今回、我々の元に送られてきたビデオである。
 送り主は、中国東部の奥地、絶叫省の住人、ダイ・オンジョウ氏。
(一部がボカされた、包み紙の送り状の画像が挿入される)
 この映像には、我々の想像を遥かに越えた、奇怪でおそろしいものが映し出されていたのだ! 
 それではさっそく、ご覧いただこう!




(VHSの映像)
山に囲まれた野原に、巨大な葉が数枚、生えている
周囲の人間より遥かに大きく、高さは背丈の5倍ほどに見える 
その周囲を、農夫の服装をした男性たちが取り囲んでいる


中国人男性1(※日本語吹替 以下同)
「何だべ? 何だべェこらぁ? でっけぇ草だなや! 見たこともねぇ! おかしなモンだぁ!」

中国人男性2
「びっくらこいだない! いやッさ、こげだもんオラはじめで見だだよ!」

中国人男性3
「のや……こい、あいでねがや? ほれ、村さ伝わるあんなよ……萬弩羅業拉よ!」


(字幕)
萬弩羅業拉 = マンドラゴラ……?

中国人男性たちがまだ口々に話をしている中、ナレーションが被さる


(ナレーション)
 マンドラゴラ。その植物について、ここで簡単に説明をしておこう。
 マンドラゴラとは、根菜である。 
 いにしえの時代よりあらゆる難病に効果があるとされ、ローマ皇帝から秦の始皇帝まで、無数の権力者が追い求めたという。

 しかし……

(マンドラゴラのイラストが挿入される。葉は緑で根は茶色いが、人間の形をしている)

 このマンドラゴラを土から引き抜く際には、気をつけなければならない!

(イラストのアップ 「キャアーッ」という女性の叫び)

 マンドラゴラは引き抜く際、その人間に似た根の顔の部分から、すさまじい絶叫を響かせるのだ! 
 それを聞いたものは発狂、あるいは悶死すると言い伝えられている!!
 そのような戦慄の植物が、中国の絶叫省奥地にて、このように超巨大な形で自生していた、というのだ!!
 


(暗い空間でこのVHSを観ている人間の背中)

男性
「ふぅム…… ンンーッ…… ンムムゥ……」

男性は顎に手をやり、呟きながら映像を観ている

(ナレーション)
 このビデオを観た探検隊の隊長、川岡猛浩は、興奮を隠しきれない様子だ! 
 数々の冒険をこなしてきた川岡の、アドベンチャーマンとしての血がたぎる!


川岡
「んンー、これはねェ、すごい発見だねェ……」


(ナレーション)
 川岡はビデオを観る前から、特製の探検服を着込んで、準備万端である!
 ビデオを見終わった川岡は、力強く立ち上がった!

立ち上がる川岡

川岡
「これはねェ……! 今、すぐに行かなくてはいけないよ!」

男2の声(番組製作陣と思われる) 
「か、川岡さん、今すぐというのは、つまり、どういうことですか!?」

川岡
「今すぐだよ! そう、我々は今すぐに……中国へ向かわなければならないんだ!!」




[早送り]


……………………


[再生]




川岡
「ほぉ……これは……」


(ナレーション)
 萬弩羅業拉……村の老人が持っていた古文書には、確かにそう書いてある! 
 根が人の形をしており、引き抜くとすさまじい声で叫ぶ……
 いにしえの伝承そのままの文章と絵が、そこには記されていた!


川岡
「なんと……おそろしい伝説なんだァッ……!」




「……ねぇ、私これ5回観てるから、全部飛ばして、終盤だけにしない?」
「ええーっ、観ようよぉ」
「めんどくさいよ。今回は最終確認だからさ、導入と終盤だけでいいって」
「しょうがないなぁ。じゃあ早送りしていいよ」




[早送り]


………………………


[再生]




川岡
「レビの前の皆さん、こんばんは。……はいっ、ここからはですね、生放送……衛星中継、生放送で! お送りしています!」


川岡が二本の腕を動かしながら、説明をしている。


川岡
「今……現地時間16時! そちら日本は、17時でしょうか? ではこちらの、トラック5台につないだ鎖で! このマンドラゴラを……
 いやァッ、本当にデカいですっ! この、土から少し出ている部分だけで、5mはあります! 土の下には、どれほどの根があるんでしょうかッ……?
 これを、今から、引きます! 引き抜きますッ! 彼ら現地の皆さんの協力もあります! このように……」

カメラが左右に振られる
探検隊、スタッフ、現地の住民全員が「ヘッドホン」や「耳栓」をつけている

川岡
「伝承の通り、抜いた時の『絶叫』の対策もキチッとしています! きっと無事に抜けるでしょう!」




「ここからまた長いから、ちょっと飛ばそ?」
「そうだね、こまあしゃるなんか見なくてもいいしね」




[早送り]


……………………


[再生]




川岡「そぉーれっ! イー! アル! サーン! イー! アル! サーン!」

マンドラゴラの葉に結びつけられた鎖が、トラックによって引かれる
少しずつ、根が抜けていく

川岡「もう少しだぞォーッ! がんばれェーっ! イー! アル! サーン!」

マンドラゴラの根の、頭部にあたる箇所が、地面から露出する

川岡「イー! アル! ……ほらあッ、抜けるぞォッ! もう一息で、抜け





 ──ここで、カイオナはリモコンの「消音」と書かれたボタンを押した。



 映像ががくがくと揺れる。

 カメラが揺れている。地面が揺れていて、カメラマンも痙攣している。
 映像の中、川岡をはじめとしたキャスト、スタッフ、現地の住民らがヘッドホンをつけた上から耳を押さえている。
 彼ら全員が体を震わせている。 
 眼を見開き、全身を襲う何かに身をよじっている。
 目、鼻、口から、血が流れ出る。 
 川岡が白眼を剥いて昏倒するかと見えた瞬間。

 頭部が爆発する。 

 周囲の人間も頭が爆発した。上半身が爆裂した者もある。
 カメラマンも同じ末路をたどったらしい。カメラが地面に落ち、画面が横になる。
 遠くに、半分ほど抜かれた、マンドラゴラの顔の部分が見える。
 先ほど映された古文書の絵にそっくりである。
 目は小さく、鼻はない。歯がびっしりと生え揃った口は大きく開かれている。
 消音しているため聞こえないが、絶叫している様子である。
 カメラはその絶叫に呼応するかのように、地面に落ちた後も、ぶるぶると震え続ける。



「……しかし、ひどいねぇ」
 カイオナはこれらの映像を観ながら言った。
「彼らがこの程度の対策でよいと思ったのが、全然理解できないよ」
 隣にいたレノンナは頷く。
「本当にね。地面から飛び出た葉の部分が20ラーロでしょ。近くの村の人々を避難させて、彼らの“耳”をふさぐ程度で足りるわけないのに」
「そうだよ。そもそもこの植物の生態が事実だとして──事実だったけど──これだけの巨大なマンドラゴラを抜こうとしたのが間違いだと思うんだよね。
 自分は当時の地球の『てれびばんぐみ』というのにはあんま詳しくないけどさ、以前から、概して、危険というものを、軽視しすぎている、ような、印象が……」
 言いながらカイオナは、DVDプレイヤーのリモコンの「停止」ボタンを押そうとする。
 しかし、細い腕の先についた触手でボタンをとらえるのが難しい。何度も別のボタンを押してしまう。
「ああもう、資料を観るにも一苦労! 私たちに対応する操作機器を要求しないと!」
 聞いていたレノンナは胸部を点滅させた。愉快な時の体部反応である。 
「困ってるの、見るの面白いから、もうしばらくこのままでいいよ」
「いや、要求する! ……これをご覧の資料担当の方々! 我々ガバシ星人にも対応した資料再生機器の導入を求めます!」

 ビデックスのスピーカーから、「要求ヲ 記録シマシタ」と機械音声が答えた。

「導入してくれないと困るんです! 特に私、地球研究専攻なので! ……えーっと、これで終わりでいいんだよね?」
「あとは資料課に視聴記録のコピーを出すのと、最後に例の、ホラ、番号とか氏名とか」
「あーっ、めんどくさぁ……」
「そういうこと言うもんじゃないよカイオナ。決まりなんだから」
 レノンナはビデックスのレンズに向かって「資料課の皆さん、すいません」と言い、三つある頭をすべて下げた。


 カイオナはビデックスに向かって、ぶっきらぼうにこう言った。


「えーっと! 映像資料閲覧記録用ビデオ・映像番号 [地球 特-0001]! 
 視聴ビデオ名! 『川岡猛浩探検隊シリーズ/緊急生放送! 中国・絶叫省の奥地に、巨大マンドラゴラが自生していた!!』
 記録者名『地球 日本 広島県呉市 豊田秀夫』! DVDレコーダーによる!
 視聴目的『巨大マンドラゴラによる、銀河系惑星・地球 全生物死滅について』のレポート作成!
 当映像は改竄等の不正行為をしていない証明のため! コピーをひとつ! 資料課に提出予定です!
 視聴者、ザオライ大学2年、ガバシ・カイオナ! 同じく2年、ガバシ・レノンナ! 
 以上、記録終わります!」






[録画、停止]




【完】

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???これはなんですか???


 本作は、カクヨムにて開催された年末の奇祭 #第一回きつねマンドラゴラ小説賞 応募作です。テーマはもちろん、#マンドラゴラ でした。


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