人類みな兄弟 番外編
人類みな兄弟 vol.1はこちら。
ふと思い出した人類みな兄弟シリーズのサイドストーリーです。
1.礼儀も文化
私たち一行は、最終地のローマにいた。
コロッセオに圧倒され、すべての道はローマに通ずを肌で感じていた。
この旅での宿係は以前書いたように私であり、インフォメーションで紹介された、おおよその価格帯のホテルからひとつを選んでそこへ向かった。
ローマは想像していたよりもずっと大都会だったと記憶しているので、今はもっと近代的になっているのかもしれない。
ホテルに着くと、粛々とチェックインをするのが当たり前だが、ここでの雰囲気は少し違った。
受付のねーちゃんは、どっからどう見てもソフトクリームをむさぼっていた。
むちゃくちゃギャルで、とてもラフな格好をしていて、ヘソも出ている。
そして、手にはそう、ソフトクリームである。
当時20歳ぐらいだった私と同世代か、ちょっとだけ年上だったような記憶もある。
彼女が何やら色々と説明してくれるわけだが、
「フリードリンクなんだけど、ペロんちょ、このフロアまで来てく、ペロんちょ、れたらいいからさぁ?モーニングは…………。」
おいおいおい、すごいな。
ながら接客だ。
こんなダイナミックな"ソフトクリーム食べながら接客"は生まれて初めて受けた。
面白すぎる異文化である。
ただし、イタリア人にどう思うか聞いたことがないので、これが異文化で片付く話なのか、イタリアでも人によってはけしからんと思う人がいるのかはわからないが。
彼女の名前は忘れもしない。
バルバラ。
互いに話しやすいと思ったらしく、アメニティだかなんだかを取りに行く度に、たわいもない会話をして過ごしていたのだが、ある時バルバラがこう言った。
「日本ってカンジ使うやん?あれかっこええわぁ。私の名前もカンジにできるん?できるならしてくれへん?」
二つ返事で承諾して、ちょっと考えさせてくれと言った。
決してもったいぶった訳ではない。
THE 当て字もなんだか嫌だし、バルバラがもしや日本に来た時に使えるぐらいの漢字をプレゼントしたかったからだ。
ソフトクリームをレロレロしながら接客するし、ビックリするほど雑な応対だが、とてもフレンドリーで憎めない。
そんな彼女にふさわしい漢字だ。
よし。
決まった。
【春薔薇】
勘違いするでない。
当て字ではない。
ただ、今思うとレディースの特攻服に施してありそうなその漢字を、バルバラの用意した小さなノートに書いてしまったかもしれない。
自分でいうのもなんだが、母は字書きであるので、娘の私もなかなかの達筆かと思われる。
そして出来るだけ立派に見えるように書いたその字が、また更にそれっぽさを強調しているようだった。
バルバラはいたく喜んでいた。
それから確か一度だけ文通をした記憶があるのだが、彼女からの手紙の最後には、一生懸命練習したであろう【春薔薇】のサインがあった。
お元気ですか、 春薔薇。
こちらももうすぐ暖かくなります。
2.イタリア人のノリのよさに便乗する父
この旅では、言葉の壁なんてどこにもないんだと、目の前で証明してくれる父との旅でもあった。
このイタリアも例外ではなく、ソフトクリーム娘、バルバラに教えてもらったレストランで食事をしていた時のこと。
ホールには当時30代〜40代に見える男性スタッフが1名。
彼は小綺麗に整えられたヘアスタイルで、常に姿勢良く、パリっとしたシャツを着て数席あるテーブルをくまなく素早く動き回っていた。
とにかく明るいし、陽気だ。
そしてまた、イタリアのパスタやピザがべらぼうに美味い。
追加注文してしまうわけだ。
すると、ノリノリのホールの男性に引っ張られるかのように父もどんどんノってきた。
ついには、ホールの彼にニックネームを付けた。
【Mr.ファンタスティコ】
もう、注文をする方もされる方も、とにかく明るい。
「ヘイ、Mr.ファンタスティコ!〇〇プリーズ!グラツィエ!!」
「プレーゴ!!!」
このターン、この店で何度見ただろうか。
ジャパニーズとイタリアーノのファンタスティコ同士が何かで共鳴し合っている
「「ファンターースティコー!!!」」
そして、今でも父は言うのである。
「グラツィエ!プレーゴ!このやりとりがカッコよかったい!」
お元気ですか、Mr.ファンタスティコ。
またイタリアでピザとパスタが食べたいです。
-----おわり-----
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