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TV出演のとき、どうしても譲れなかったこととその顛末

TBSテレビ「審査委員長・松本人志」という番組に出演しました。この番組は、お笑い芸人、松本人志さんが、審査委員長となって、あまり見たことのないジャンルの1位を決めるというバラエティー番組です。記念すべき1回目の放送では、『照れずに読めば、子どもが笑う絵本コンテスト』が開催され、プレゼンターの一人として、私、ドンハマ★が、出演させていただきました。

その際、ドンハマ★が、絵本好きとして、絵本を愛する一人として、譲れなかったこととその顛末について、書いてみようと思います。

(1)私がプレゼンした絵本

私が、今回プレゼンしたのは、『えがないえほん』(作:B・J・ノヴァク、訳:大友 剛、早川書房刊)です。絵本のプレゼンターである以上は、その魅力を最大限お伝えするのが、自分の役割と考えていました。ですので、もし、その役割を全うできないのであれば、自分は出演を辞退するつもりでいました。

事前収録なので、どのように編集されるかまでは、まったく関与しようもないことですし、絵本を題材にしていると言っても情報番組ではなく、バラエティー番組ですので、絵本のすばらしさや魅力が最終的にどの程度伝わるかは、まったくわかりません。そういう不安は、ずっと付きまといましたが、自分の言うべきことは言おう、そういう気持ちでした。

(2)打ち合わせ時に試された

最初に出演の打診があってから、最終決定するまで、約1カ月ありました。ずいぶん時間があったので、もう流れたかな?と思っていたくらいでした。最初、電話での打ち合わせでしたが、絵本についてのポイントをプレゼンターが説明し、その後、出演の芸能人が実際に子どもたちによみきかせを披露するという流れだということが分かりました。

仮ではありますが、私がプレゼンターのトップなので、「えがないえほん」はおそらく、まっちゃん(松本人志さん)が読むことになるだろうということが想像できました。そこで、ディレクターさんから、「一冊すべてを読むことはできないと思うので、どこを読んだら良いか?ドンハマ★さんから事前に教えていただくことはできますか?」と言われました。

番組の中での絵本のコーナーは約30分。その中に絵本が3冊登場します。それぞれに多少、長い短いはあったにしても、それらのよみきかせをすべてオンエアすることはできない。それは致し方ないことだとも思いました。(絵本の情報番組ではなく、バラエティー番組ですからね)

(3)ドンハマ★としての矜持

致し方ないとは思いつつも、違和感を禁じ得ない私は、ディレクターさんに言いました。「オンエア本番で、編集され、カットされてしまうのは、番組上、致し方ないと思います。しかし、絵本好きの私の立場で、こことここを読んでくださいとは言えないです。なぜなら、絵本には流れがあって、一冊まるごとで、その絵本の世界観ができあがっているからです。ですから、全部を読んでいただくのが基本です。もし、どうしてもどこかを選ばねばならないとしたら、残念ですが、そこまでして、私はご協力したいと思いません。」というようなことを伝えました。(今から考えると偉そうですね)

ディレクターさんは、驚かれたと思います。「まっちゃん(松本人志さん)に絵本一冊ぜんぶ読ませるのか?」そういう空気感が、電話口の二人の間に漂ったように思います。私は、折れませんでした。「えがないえほん」は一冊まるごと読んでも3~4分で読むことが可能なことなどもお伝えして、検討いただくことをお約束いただいたのです。

(4)願いは受け入れられた

番組制作会議(正式な会議名はわかりませんが、きっとこういう感じだと思います)の結果の連絡が来ました。願いは受け入れられました。ディレクターさんからは、「冒頭のプレゼン部分は、ポイントを何箇所かご紹介いただくことになりますが、その後の芸能人の方のよみきかせについては、ぜんぶ読んでいただくことになりました」と。

私は、自分が出演できる喜び以上に、役割の半分は果たせたような気持ちになって、ホッとしたのを覚えています。おそらくディレクターさんもかなり強く主張してくださったんだと思います。ご理解いただけて本当に感謝しています。

それから、局さんとの打ち合わせややりとりを何度か経て、そしてたまたまドンハマ★は、翻訳者の大友剛さんともご面識があったので、「えがないえほん」についての思いや情報を事前に教えていただいて、収録本番に備えたのです。

(5)収録当日:お笑いの神様と絵本の神様のせめぎ合い

私は、特段信心深いわけでもありませんが、プロの領域には「神様」がいるような気がしています。収録本番の8月3日は、例年になく長い梅雨がようやく開けて、真夏日になりました。そして、それは《お笑いの神様》と《絵本の神様》のせめぎ合いの日でもあったと思います。

番組自体は、関東ローカルの特番でありながら、審査委員長の松本人志さんに加え、オードリーの若林さんがMCを務めるなど、豪華なメンバーで、将来は番組のレギュラー化を狙うともうわさされているようです。

そういう意味で、番組スタッフの方々にとっても、初めての段取りがいくつもあるにもかかわらず、当然のことながら失敗は許されないという独特の緊張感が漂っているように感じました。

収録は、16:00からでしたが、私たちプレゼンターは、朝から局入りし、カメリハなどを経て、本番を待っていました。もしかしたら本番前にまっちゃんとちょっとおしゃべりできるかもなどど、素人の妄想もしていましたが、そういう個別の接触は当たり前にまったくなく、途中、収録の順序が入れ替わったりもあって、ドンハマ★としては、あれよあれよという間に本番のスタジオに立っていたという感じです。もしかしたらTVのモニター越しに、緊張しているドンハマ★の様子を感じた方もあると思いますが、それは《場の雰囲気》が読めないまま、そこに放り出されたありのままの姿だとご理解ください。

緊張はしていたものの、ある程度流れは決まっていましたので、自分のプレゼンをひと通り終えて、芸能人の方が絵本を子どもたちに読む段になりました。MCの若林さんが、松本人志さん(まっちゃん)を指名しました。まっちゃんは、マジか!という驚いた表情でした。それはお笑いの方らしいリアクションにも思いましたが、まっちゃん自身、指名されることは本当に知らされていなかったように思います。おそらくMCの若林さんだけ、その段取りを知っていたのではないでしょうか?(事前の打ち合わせの様子はわからないので、すべては私の推測ですが)

さすがお笑いの大御所です。困ったなあ~という風に私たちの気を引くリアクションを見せながら、子どもたちが待機する場所に、まっちゃんは歩いて行きました。そして、その歩いて行く瞬間に、まっちゃんがこぼした一言がありました。私はそれを聞き逃しませんでした。

(6)これぜんぶよむの?

そう、まっちゃんは言ったのです。「これぜんぶよむの?」って。誰かが「はい、ぜんぶです。」と答えました。それには、特に反応することはなく、まっちゃんは歩いていきました。その様子を見て、私が瞬間的に思ったのは「これは、ぜんぶを読む気はないな~」でした。

それは《お笑いの神様》が《絵本の神様》に勝利宣言した瞬間でもありました。

お笑いの神様:「わては、絵本がすばらしいということ、ようわかってんねん。そやし、べつにぜんぶ読まんでもええねん。悪いけど、今日は、お笑い番組で、お笑いの神様の持ち場やねんで~。」

絵本の神様:「そやけど、せっかくやし、一回全部読んでほしいねん。そしたら、絵本のすばらしさ、もっとわかると思うねん。」

お笑いの神様:「まあ、言いたいことはわかるけど、神様には神様の持ち場もあるしな。まあ全部読めたら読むけど、笑いを取るのが笑いの神様の存在理由やろ。それは、神様同士、わかってるやろ~」

今から思えば、そんな会話が聴こえたような気がします。

(7)結局のところ

絵本の神様の願いは、はかなくも崩れました。まっちゃんが、「えがないえほん」一冊をよみきることはありませんでした。(読まなかったのか、読めなかったのか、それに大した違いはないと思っています)

その様子を見て、人間であるドンハマ★は、すっかり脱力し、ダメだったと心の中でつぶやきました。

しかし、《お笑いの神様》も気の毒に思ってくれたのでしょうか?ほかのプレゼンターの方々が紹介した絵本は、芸能人の方々が、最後までぜんぶ読んでくださったのでした。

(8)最後に聞こえた《TVの神様》の声

TBSでのオンエアが、9/5(土)終わりました。それを見て、《TVの神様》がこんな風に言っているような気がしています。

「お笑いの神様が言うことも、絵本の神様が言うことも、全部、筋は通ってますな。しかしながら、TV的には、編集させてもらうんで、全部読んだか読んでないかの差は、そんなに違わないんだよ~。いずれにせよ、絵本の魅力は、結構、伝わったと思うよ~。番組的にもウケていたしね。まあ、あとはこの番組がレギュラーになるくらい評判になってほしい、それだけですな」

収録日には、あんなに脱力したドンハマ★も、オンエアを見て、ほっとした。それが、正直な気持ちです。神様、みんな、ありがとう。

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《追記》本投稿に、まっちゃん(松本人志さん)を非難する意図はありません。私がなぜ絵本を一冊まるごと読むことにこだわっているかが、まっちゃんにまで伝わっていなかったのだと思います。そして、もし伝わっていたとしたら、彼は全力で全ページを読もうとしてくれたのではないかと思っています。また、投票の際、審査委員長として「えがないえほん」に2票を投じてくださったことも申し添えます。

                         (文:ドンハマ★)






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