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わが主観的東大生論

最初に誤解のないように言っておくが、ボクは東大卒でも東大院卒でもない。自分の人生の前半部分で区切れば、出会う確率の最も低かったのが東大(卒)生であり、また直近10年だけ区切ると頻繁に出会っているのが東大・東大院(卒)生とも言える。これは、そんな体験から勝手に記す、ドンハマ★の主観的東大生論である。

人生の前半で出会った東大卒生

ボクは、関西圏の出身で、そもそも学歴ヒエラルキーで言うと、京大をトップにした序列を意識していたから、京大へのあこがれ心はあったものの、東大はまた別格というか、縁遠いイメージが強かった。実際、学生時代は、東大関係の知り合いは一人もいなかった。

私の記憶で言えば、最初に知り合いになった東大卒生は、通称クマさんである。まだ私が新卒社員の時、会社の先輩が幼馴染と飲むので行こう!と誘われて、出会ったのである。クマさんは、東大卒らしいキャリアと言って良いと思うが、当時の長銀(日本長期信用金庫、バブル崩壊後破綻)に勤めていた。大阪・難波支店に彼を訪ねて行ったら、なんと支店の中で、笑いながらボンゴ(太鼓)をポコポコ叩いている彼を目撃したのである。その時の衝撃は今でも忘れられないが、ハマザキも叩いたらといって、みんなでしばしドカドカやったような気がする。その後、かどやという居酒屋で、豚足をほおばったのが良き思い出だ。

クマさんは、ラグビー部の出身で、頑強な体つきだが、繊細で気配りができて、八重歯がのぞく笑顔がとってもチャーミングな方だった。みんなから愛されていたが、若くしてガンを患い、多くの人に惜しまれながら、たしか40歳くらいでこの世を去って行かれた。

次に出会った東大卒生は、私が転職をして、東京の会社に勤めていた時に出会ったOさんである。当時、日本で最も勢いのあった流通グループと言って良いと思うが、ダイエーのハウスエージェンシー(広告会社)に私は勤めていて、Oさんは、クライアント側で、ダイエーの広告宣伝部に所属していた。野球部のご出身で、背が高く、少しハーフっぽい目鼻立ちは、いやおうなしに目立つものがあった。その表情は、いつも険しいというか、何か言いたげな方という印象が残っている。

ダイエーというのは、当時、中内功というカリスマ経営者のもと、大変な勢いで業績を伸ばしていたが、社内は、上意下達の緊張感がピリピリと張り詰める特異な空間であった。東大卒というキャリアは、当時の流通業では珍しく、その存在は、職場の中で、ちょっと浮いているように見えた。Oさんと直接仕事でご一緒することはほとんどなかったが、彼の言動から感じたのは、イエスマンとして仕事をこなさねばならぬ状況に身を持てあましている様子であった。きっと苦しい環境だったように思う。

私が今の会社に転職して、しばらくして、Oさんも、確か外資系のPR会社に転職されたような記憶がある。今でも、年イチの賀状のやりとりだけが続いている。

私の半生(前半)で出会った、この二人の東大卒生を振り返るだけでも、頭脳明晰、冷静沈着、官僚や一流企業のエリートといった固定的なイメージではひとくくりにできないのだと改めて感じる。

そもそも東大・東大院(卒)生って、珍しいのか?

このそもそもの問いを数量的に考えてみたいと思う。東京大学のホームページを見ると、2020年度11月時点での学部生が14,010名、院生が13,001名で、合計すると2万7千名を超えるかなりの大所帯であることがわかる。多種多様な人間がいて当然と思う。

2017年度の経済誌「東洋経済」では、全国の大学の学生数を特集記事で扱っているが、東大は、国公立大学では全国1位。私学を含めた全体でも12位にランキングされている。学生数7万人台の日大と、5万人台の早大は、頭一つ二つ抜けている感があるが、その後の3万人台と続く立命大、慶大、明大、近大、東洋大、法大、関大、東海大、同大、中大、関学といったマンモス私学とほぼ同規模校と言えるほど大きな大学なのである。

大学定員厳格化(定員を超えた入学者の割合に応じて、大学補助金を減じるという文科省の施策)で、総じて私立大学の学生数が減じる傾向があることで、相対的に国公立大学の学生数が上位にランキングされるようになった。

次は、卒業生数に注目してみたいと思う。前述の東京大学のホームページによると、これまでの学部卒が28万人余り、院卒が14万人余りとなっている。合計すると、約42万人になるが、その中には、東大からそのまま院に進学した内部進学者も相当数いるはずである。さらにデータから、その数を考慮すると、院への内部進学者と外部進学者の割合が、昨年は、半分半分であったことから、院卒約14万人の半数(約7万人)が「院から東大入学」をしたと類推できるので、正味数で約35万人が、東大(学部または院)を卒業したことになる。

日本の成人人口が、約1億人であるから、〔1億人÷35万人≒285人〕と計算。大人300人に必ず1人は、東大(院)卒業生ということが見えてくるのである。実際には偏在しているのだろうが、統計的には、日本中どこでも・・・という話になるわけで、学力偏差的にはかなり究極値にある東大(院)卒者ではあるが、存在自体は決して珍しくなく、身近な存在であるとも言える。

ドンハマ★の人生のこの10年で、東大・東大院(卒)生とのご縁が格段に増えてきたというのも、さほど不思議ではない気がしてくる。

(ドンハマ★的)最近の東大(卒)生観

真偽のほどは別にして、日本の学校の学力低下が、近年しばしば取りざたされてきている(最近はその手の報道は落ち着いたように思えるが)。論文の発表数などが、評価の基準のようだが、世界の大学ランキングでは、東大を含む日本の大学は相対的に順位を落としていると報じられてきている。

オックスフォードやハーバードやMITなど歴史ある欧米の大学群が、日本でもさらに注目されるようになり、アジア各国の大学もどんどん伸長していていて、日本の大学だけが取り残される感が強かったと思う。

また、MOOCS(ムークス)と言われる大学の講義配信システムの普及や、昨年来のCOVID-19のによる大学内での活動制限や渡航制限も重なって、高等教育におけるオンライン化に拍車が掛かっている。最たる事例としては、ミネルバ大学と呼ばれるオンライン専用の大学の存在が注目を浴びるようになり、開校からわずか4年で、ハーバードよりも入学が難しいとさえ言われる注目ぶりでなのである。

このような昨今の状況を踏まえるとやはり「東大」というブランドイメージも昭和の時代の「超エリート集団」から様変わりし、ある意味大衆化したともいえるし、さらに多様化したとも言えるのではないかと思う。そして、「学問の最高学府」から「実学的で起業する」イメージも強くなっている。それが私の思う最近の東大(卒)生の印象である。

私がこの10年でご縁をいただいた東大・東大院(卒)生の中から、特に印象深い3名(年齢は30代)を最後にご紹介したいと思う。たまたまではあるが、3人とも最近、自著や共著を出版されている。

印象深い東大・東大院卒生

1人目は、議論メシというコミュニティーの主宰者である黒田悠介さん。2004年に東大理科一類に入学するも、その後、心理学への関心が高まり、文学部に転籍したという変わり種というか、自分の興味関心にまっすぐ向かって行ける人、感度の卓越した方だと思う。

卒業後、大手企業への就活はせず、ベンチャー系の企業を2社経験後、起業。その後、キャリアカウンセラーとしての対話のおもしろさを実感し、ディカッションパートナーという新しいコンセプトで独立し、フリーランス研究家としても活躍されている。

直近では、『ライフピボット』という著書も上梓され、ご自身の考えるキャリ感やキャリアを繋げるノウハウをあますところなく公開されている。

緻密な思考力と、繊細なフォローのしくみ、そしてすべての人のキャリアをより良きものにしたいという、ベースにある公共心は、黒田さんの持つ東大らしさだと感じている。

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二人目も、議論メシ関係で、コミュニティー内の編集部で、部長をしている貝野綾さん。貝野さんは、仙台の高校を卒業後、都内の私立大学で学んだ後、2011年に東大院に入学し、フィリピン留学の経験から、出稼ぎ労働やスラムについて関心が高まり、国際協力を専攻した。現在のキャリアは、アマゾンウェブサービスジャパンでセールスサポート職に就いていて、議論メシやそれに付随する活動は、パラレルキャリア的な位置づけのようだ。

ご自身の10年以上にわたる「いじめ」られる体験も含めながら『ダメな貴方でも死なない学校を生き抜く術』を共著で出され、社会的処方や家族の在り方という観点から、人々へメッセージを行っている。

人生の幾度の危機の中で、これしかないという選択をし続けてきた彼女の人生観や世界観は、少しニヒルと諦念をともなっているように思うが、日々の発信や行動を思うと、人と人とのつながりに大きな熱量と祈りを持っている人だと感じる。

経験してきた物事の振れ幅の大きさを次なるエネルギーに転化し、人並みならぬ形で実現してしまうところが、彼女の東大的なファクターだと思っている。

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三人目は、クリエイターで漫画家のハミ山クリニカさん。彼女は、1990年生まれで、東京芸大を中退し、東大理学部を卒業したというユニークな経歴の持ち主である。

彼女は、出版社勤務時代に、私の主宰する大人向け絵本イベントに何度か遊びに来てくれ、それでご自身でユニークなマンガを描いておられることを知った。最近では、新たに半自叙伝的な『汚部屋そだちの東大生』というコミック本を出版。

芸大で、東大だなんて、どんな英才教育を子どものころから受けて来たんだろうとステレオタイプな思考に私も陥っていたわけだが、彼女が「毒親」とも言うべき母親との確執の中で、どのように自立しようともがいてきたのか、このコミックから、一端をうかがい知ることができる。

今は、結婚もされ、母親でもあるということなのだが、ハミ山さんの平和な日々がずっと続いてほしいとついつい願わずにはおれない。

汚部屋の中で、絶望感に浸りながらも、自分ができることをひたすらやり続ける継続力とパワーは、東大生ならではの凄みがある。

まとめ

他にもご紹介したい候補者は何人かいたのだけれど、今回はどうかご容赦願いたい。

さて、3人を私なりに紹介して感じるのは、《誰よりも自分自身が、自分の力と可能性を最大限に信じ、行動できること》が、東大生の特徴的な一面かもしれないということだ。

そして、この自分を信じ、行動する力は、東大生でなかったとしても、発揮できる力とも言える。自分のそのようにありたいと心から願いつつ、しめたいと思う。



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