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空飛ぶ汽車とサラの夢 第11話

《第9話こちら》
《第10話こちら》

ーーお兄ちゃん......どこ?

サラは、駅のホームに駆けだしていきました。
すると、
向こうのほうから、うっすらと汽車のシュシュシュシュシュという音が聞こえてきます。小さな黒い塊が、どんどん大きくなってきました。あの日見た機関車です。

駅のホームに汽車が到着するやいなや、客車のドアが開いて、ケイが姿を現しました。
「サラ!よくきたね。待っていたよ 」
ドアから飛び降りて、ケイは落ち着いた声でいいました。
サラは、ケイに飛びつきました。
「お兄ちゃん......!」
ケイは優しくサラを抱きしめました。
車内からは、二人の姿を見守る、ソウや10人ほどの若者のあたたかい瞳がありました。
ケイがゆっくりサラから身を離して、サラの目をまっすぐに見つめます。

「さぁ、サラ、村にいたら一生見ることのできないことばかりが待ってるぞ 」

サラは、ケイの瞳に、これまでにない深さと明るさを感じて、コクっとうなずきました。
ケイは、汽車のドアに自分が先に上がると、サラが乗るのを助けました。

「ようこそサラちゃん。旅に出る準備はいいかい?」
ソウが腰に手をあてて、少ししゃがみこむようにサラを見つめて言いました。
「はい」
サラは、ソウのことをまっすぐ見つめていました。

「私、お兄ちゃんが言っていた空に輝く光る玉を見たいんです。もし本当にあるのなら、私はその光る玉を、村のみんなにも見られるようにしたいんです。だから、一緒に行かせてください。よろしくお願いします」

ソウは、一瞬、”ほぉ” と驚いた表情をした後ににっこり微笑み、サラの肩を抱きました。
ソウはサラを迎えるように横に並んで歩きながら、言いました。

「僕たちみんな、君を待ってたよ。ここで君が心のままに振る舞うなら、すぐに君の夢は叶うだろう」

そして、みんなに向かって、大きな声で言いました。
「みんな、僕たちの仲間、サラだ。一緒にこの村の雲を晴らしてみせよう!」
みんな、手に持ったギターやドラムをジャカジャカっとかき鳴らして、
口々に「よろしく!」と言いました。

「さぁ、出発だ!」
ソウが言うと、機関車はまた、シュ・・・シュ・・シュ・シュ・シュシュシュシュと音を加速させ、ついに動き出しました。
どんどんスピードを上げ、気がつけば、ふわっと空を飛んで、どこまでも、どこまでも高く飛んで行きます。
あっと言うまに、サラの身長の何十倍もある森を越え、家がどんどん小さくなり、ついにはサラの村全部があっという間にすっぽり窓に収まる大きさになりました。

「うわぁ~!」
サラは景色に釘づけです。そんなサラを、ケイが嬉しそうに、ちょっといたずらっぽい目で見つめています。
と、視界が急に、煙に包まれたようになりました。
汽車が雲の層に突入したのです。
「え!?」

びっくりしたサラはケイの顔を見ましたが、ケイは落ち着いた顔をしてサラを見て、そしてまた窓の外へと視線を移しました。サラもつられて、窓の外を眺めました。
汽車はまるでわたあめを作る機械に入ったみたいに、ちぎれた雲がビュービュー流れる中を進んでいきます。

そして......

窓が青いガラスに変わりました。サラははじめ、誰かが一瞬にして窓を青い絵の具で塗りつぶしたのかと思いました。それほどまでに、動かない、青。

「サラ、僕たちが村から見ていた空は、空じゃなくて、”雲” だったんだ。”雲 ”の上には、こうして青い空が、どこまでもどこまでも広がっているんだ 」

「......これが......空!?」
「そう......これが、空」
「......青すぎて、なんにも見えないよ」

サラがそういうと、みんな笑いました。
「あはは、ホントだ。空って青すぎて、あるんだかなんだかわからないよなぁ 」
「さぁサラ、まだまだ驚くことがあるぞ!」
機関車がゆっくりと向きを変えると、窓に強烈な光が差し込みました。

次回へつづく

原作・ 絵 Ayane Iijima 
原案 Mariko Okano



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