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空飛ぶ汽車とサラの夢 第10話

《第8話こちら》
《第9話こちら》

次の日の朝、サラは一人きりで森にいました。花を見ても、鳥のさえずりを聞いても、サラの心は晴れません。
なにをみても、 ”お兄ちゃん” と見た時のことを思い出して、心がヒリヒリするだけです。
サラは歩きながら、森と一緒に深呼吸をしていました。

「......怖かった 」

サラの口からポツリと言葉がこぼれます。

「......行きたかった 」

ゆっくりと、時間をあけて、また一つ声があふれました。
サラは、立ち止まりました。

目を閉じて、何度も、何度も、大きく深呼吸をしました。
森の木々はそよぎ、鳥たちが遠くで鳴いています。
サラは目をあけると、言いました。

「行こう。サラも一緒に行くよ。おにいちゃん 」

サラはすぐに支度をしました。
家に帰って、いつものようにお父さんとお母さんとご飯を食べました。
部屋に戻ると、リュックを取り出し、今度は丁寧に、必要そうなものをつめていきます。服、おやつ、絵日記を書くための色鉛筆やノート、コンパス。分度器も入れました。なにが必要になるかわからないからです。
それから、枕元に置いてあったお気に入りの亀のぬいぐるみも一緒です。
そして、机に向かって、こう書きつけました。

大好きなお父さん、大好きなお母さん
サラは少し、旅をしてきます。
笑顔で帰ってくるから、笑顔でいてください。
サラより

「これでよし、と」
サラは、いつもの学校に行くような顔をして、家を出ました。

心の中でそっと、
「お父さん、お母さん、行ってくるね。怒らないでね 」とつぶやきました。

そしてそのまままっすぐ、森へ向かいました。
サラは信じていました。もう空飛ぶ汽車はそこにいるはずです。
今朝はかごめかごめも歌ったし、本気で願えば来るということは、もうその目で体験済みでしたから。

さて、
秘密基地のトビラは、例の作ったような完璧なトビラになっていました。
目印のバッテンがかけてあります。
サラはやっぱりちょっと緊張して、しばらくトビラの前に立ち止まってしまいましたが、ぎゅっとドアをつかんで、押し出しました。

そこにはちゃんと、以前と同じ、駅の待合室がありました。でも、ベンチにも、その向こうの駅のホームにも、誰の姿も見えません。怖いくらいに静かです。

ーーお兄ちゃん......どこ?

サラは、駅のホームに駆けだしていきました。

すると、向こうのほうから、うっすらと汽車のシュシュシュシュシュという音が聞こえてきます。
小さな黒い塊が、どんどん大きくなってきました。あの日見た機関車です。

次回へつづく

原作・ 絵 Ayane Iijima 
原案 Mariko Okano



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