新雪。

白に覆われた街の上、ふと仰向けになってみる。氷点下の外気は、その数値から想定しうるよりはずっと心地よく、新雪の軋む音はどこか懐かしい。雪が降りしきる頃はいつも殊更に静かで、感覚が鋭敏になる。

千切られた雲が落ちてくる風景は、海の中を思い出させる。幼き頃、波に流されて溺れた時、海を通した見上げた光景はこんな感じだった。小さな白い塊が蠢き、自分から溢れ出す気泡がそれらにぶつかる。太陽は、地上よりもずっと遠く、ずっと儚く浮かんでいた。力が抜け意識を失う直前に、僕は誰かに助けられた。それが誰だったのかは思い出せない。ただ、確かに僕はあの瞬間死の淵を除き、捉えられたのだ。

コートに雪化粧が施されたから、僕は身体を起こし、また新雪を踏みしめた。靴底の下で、雪はいやだと鳴いた。


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