カタフィール。

「地下へと続く道は、あなたが思っているよりずっと多いのよ」

彼女の言葉を聞いてから気にするようになったけれども、世間には沢山の地下へと繋がる道がある。地下鉄の入口、マンホールのひとつひとつ、ほとんどのビルに用意されている地下フロア。羽を持たない僕たちは、空よりも地下に向かう方が億劫では無いし、居心地がいいのかもしれない。

「私は彼らの気持ちが時々怖いくらいに分かるの」

この街でも、地下世界に住む人々がいるらしい。僕は彼女の言葉をなぞり、想像してみる。好んで地下世界に住む意味を。陽光を避け、息の詰まる空間の狭さに身を置くことで、いったい何が満たされるのだろうか。僕には分かりえなかった。あるいは、地下に住まなければいけない状況というものがあるのかもしれない。しかし、実感としてそのような生活を想像することが僕にはできなかった。それでも、この靴底の下の、厚いアスファルトの下で、眠っている人がいるのだ。

街では、地下世界に住む人をカタフィールと呼ぶ。僕は地下へと繋がる道を見る度に、カタフィールについて考えている。

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