砂時計。

男は家を出る前、必ず机の上の砂時計をひっくり返した。それはささやかなルーティンだった。昼と夜は当たり前に繰り返されるが、男は落ちきった砂を見た方が時間の経過に実感を持てた。男は毎日砂時計をひっくり返し、落下した砂と過ぎ去った時間を愛でていた。

ある晩、くたくたに疲れた男はある異変に気付いた。砂が落ちることなく、上部に留まり続けている。男は怪訝に思い、砂時計を手に取った。ひび割れとかなにか異変が起こって、正しく砂が落ちていないのだと思った。しかし、砂時計に問題などなかった。男は考える。誰かがこの部屋で砂時計に細工をしたのか、宇宙の方がひっくり返ってしまったのか。

男はその晩、病的に深い眠りに落ちた。世界は不思議なところで影響しあっている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?