使い捨ての人格。
「人に弱みを見せられたのは、これが初めてです」
彼とは行きずりに出会ったが、趣味のいい魔法をかけられたみたいにお互いの波長があった。
「どうして、私には見せられたのかな?」
「分かりません。僕もこの人格は初めてなんです」
私は彼が害のない冗談を言っているのだと思った。
「記念すべき今日は、何個目の人格なの?」
「僕が認識している限りは、9個目です」
「私と出会ってなかったら、この人格は立ち現れなかった?」
「はい。あなたに会えたことを、僕は運命と言って差し支えないでしょう」
例えまやかしであったとしても、それは私の感覚器官では測りきれないほど至福の夜だった。しかし、朝になると彼は消えていた。そこには面影も痕跡もなく、私は深い哀しみを憶えた。私は身支度を整えながら、彼が呟いた言葉を思い返した。
「例え使い捨ての人格だとしても、それが僕であることには代わりがないのです」