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Tongue.

彼女はとても長い舌をもっていた。いつもはつつましくそれを使用するから、ほとんどの人は彼女の舌の長さに気付かない。ほとんどの人は、他人の舌の長さを気にかけるほど生活にゆとりがないのだ。しかし、世の中にはゆとりがなくても、他人の舌に病的な興味を持つ人がいる。ちなみに僕は、ひったくりにあった瞬間にも、犯人の舌の長さを推し量っていた。

ただ、僕は他人の舌に対してフェチズムを抱いている訳では無い。それは、美的な欲求なのだ。僕は舌の ーとりわけ、カメレオンの神様と契ったような長い舌のー 造形や質感に、美しさを感じるのだ。彼女の舌は素晴らしかった。僕は何枚もスケッチを取らしてもらい、大切に保管していた。

それを密かな趣向に過ぎなかった。それなのに! ……ずけずけと蹂躙されてしまった。スケッチからは艶やかさが失われて、無機質な連なりになってしまった……醜い舌を浴びてばかりだ。

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