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風。

風は止まることができない。気圧の方程式に則って、打算的に宿命を受け入れる。革命も蜂起もする術がない。一縷の隙間もなく構築された、完璧な社会主義のように。感情を排斥され、思考の梯子を外される。風に同情しても、風は何も感じないし、何も思わない。


向かい風が僕をせき止める。振り返れば、追い風になると唄う人がいた。傍向けば、そよ風になると諭す人がいた。風は風でしかない。言い切ってしまえばそれまでだ。僕は僕でしかないし、喧騒は喧騒でしかない。A=Aをひっくり返すだけの行為は、空気に形を見つけるような徒労だ。僕は意味を付したいし、意味を慈しみたい。この風を、向かい風と分類してやりたいし、困難のメタファーとして都合よく解釈したい。風は吹いている。風は吹かされている。それをどう僕の人生に組み込んでやるのかが、僕のささやかな嗜みなのかもしれない。

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