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Fridge.

冷蔵庫の上で文字を書くのが好きだ。洗濯機では低すぎるし、棚の上は腕が届かない。一人暮らしの冷蔵庫の上はちょうど僕の胸の辺りの高さで、文字がするすると浮かんでくる。僕は煮詰まると、一式を冷蔵庫の上に持ち出すようにしている。コーヒーメーカーが時間を知らせてくれるし、喉が渇いたらすぐに麦茶を取り出すことができる。それならいつも冷蔵庫の上で書けばいいとも思うが、僕はこの恍惚を褪せさせたくないのだ。過剰な消費に良い事なんてなにもない。それは結構、確かなことだ。

「この首は、キッチンで詠んだんですか?」

僕はびっくりして、少し身震いがした。

「そう。どうして分かったの?」

新入生の君はその鋭い視座とは裏腹に、気恥ずかしそうにして答えた。

「どうしてだろう……冷蔵庫のファンの音が聞こえたんです」

シナプスが意外な所で繋がっているように、文字は紡がれた空間や音と関わりあっている。僕のFridgeな文字が、そのFridgeらしさを失っていないのなら、文字が死んでいないことの逆説でもある。さて、この文章にはファンのリズムが刻まれているだろうか?

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