本棚。

本棚を組み立てるところから、僕の物語は始まる。しかし、一人ですっかり組み立てるこてしまうことはなかなか骨が折れる。結局、2ヶ月近くかかってしまった。しかし、本棚の部品達と過ごす2ヶ月間も悪くはなかったから、最後の棚をはめるのには3日もかかってしまった。完成させてやらないと、僕の物語も進まないから、ささやかな儀礼を催して何とかはめた。僕はわんわんと泣いてしまった。

さて、物語は一つ進んだ。僕は何も入っていない本棚に、物語の鍵を握る本を立て掛ける。何も入ってない本棚は、何だか妖艶だから勿体ないような気もするけれども、これは必要なプロセスだ。僕は、前の家から唯一持ってきた本である、『アンナ・カレーニナ』の中巻を上段に配架した。どんな話だったかいまいち覚えていなかったけれど、中巻の方がいい気がしたからそれにしたのだ。

『アンナ・カレーニナ』の中巻しか入っていない本棚は、何かのオブジェみたいだった。これを依り代に、いったいどんな物語が紡がれていくのだろう? 僕は外出するために、一張羅の服を着た。

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