夜の蝶。

灯ともし頃、私はあなたを見てあなたであると自信をもつことができなかった。頬笑んだあなたを見て、私は胸を締め付けられる思いだった。

彼女の手は冷たかった。私はその手を握り、あなたが氷のように溶け出してしまうのではないかと不安に思った。繁華街の喧噪が私たちの儚い結び目を際立たせ、お互いがお互いの手を強く握ることしかできなかった。

どれだけ酒に頼ろうとも、あなたの前で私が酔えるはずがなかった。私は服を着たあなたをみることで、邂逅したあの夜を痛く感じた。その針は鋭く、私を貫くには十分過ぎるほどだ。自分を否定するようにグラスを空けるあなたを見て、私は煙草に逃げることしかできなかった。

この混沌とした渦中、正解なんてものがあるとは思えない。しかし、お互いがたとえ背中合わせでも、肌を寄せ合うこと以外できるはずがなかった。あなたは私を求め、私はそれに肯んずるほかがなかった。

明くる朝、私はあなたの背中を見て、一筋だけ涙を流した。

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