ある失墜。

「君は彼女を失うべきじゃなかったよ」

友人は珍しく、僕の人生に介入してきた。

「仕方がないよ」

「仕方がないことなんて、世の中にはそうないよ」

「なんだい、君にしては随分情緒的じゃないか」

「情緒的じゃなかったら、人である意味がないだろう」

人生にそもそも意味なんてない、と反論しようと思ったが、功利に反するので僕は口を噤んだ。

「いずれにせよ、君は彼女を失うべきじゃなかったんだ」

友人は、彼女に思いを寄せていたのかもしれない。酒色は人から論理を剥ぎ取ることを、僕は知っている。

「正直言って、僕は彼女を知ってからずっと〝こういうひとを抱けたら幸せなんだろうな〟って羨んでいたよ」

「なら、告白でもすればよかったじゃないか」

「君が隣にいるのに、できるわけないだろう」

「何も、四六時中僕が隣にいるわけじゃない」

友人は呆れるように溜息をついたので、僕は不快に思った。友人は、思考と行動が一致している側のひとだと思っていたので、僕は少しがっかりした。

「君はそれでいいかもしれないけれど……君は確かに、失うべきではないひとを失ってしまったんだ」



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